出版社内容情報
輝くばかりに美しく、ヴィナスのような肉体をもつ美貌のアリシヤ。しかし彼女の魂はあまりに卑俗で、恋人である青年貴族エワルドは苦悩し、絶望していた。自殺まで考える彼のために、科学者エディソンは人造人間ハダリーを創造したが……。ヴィリエ・ド・リラダンの文学世界を鏤骨の名訳で贈る。正漢字・歴史的仮名遣い。解説=窪田般彌
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
215
世紀末のほの暗い頽廃が小説の全篇を覆いながら、同時に来るべき20世紀を密かに待望するといった、きわめて特異な世界をそこに現出させている。主人公は、なんとあのエディソン。とりわけ、電気や電送に対して、作家自身が大いに期待を寄せていたように思われる。SFといえば、まあそうでないことはないが、しかしその実態はロマネスクな世紀末文学である。人間の感情や感覚もまた、所詮は電気的な信号の伝達に過ぎないと喝破しているのは、なかなかの卓見か。結末は予想通りとはいえ、そもそもプロットは小説の中では副次的なものに過ぎない。2015/01/07
Aya Murakami
72
図書館本。 アンドロイドというワードが初めて使われた小説…ということですが本作では人造人間と表現されていました。文体が泉鏡花のような古風で優雅な雰囲気だったので横文字よりも人造人間と訳した方がしっくりくると思ったからでしょうか? エジソンは現実のエジソンを神格化した表現ということらしいです。島耕作の初芝電器のようなノリでしょうか?人造人間の魅力によって生身の人間に興味がなくなる主人公も併せてRURよりもいっそう漫画チックなSF古典でした。2019/07/10
藤月はな(灯れ松明の火)
35
エディソンは美しい恋人の魂の俗悪さに自殺すらも考えるエワルド卿を慮り、人造人間のハダリーへ彼女の俗悪さだけを抜いた魂を入れることを提案する。まず、エワルド卿とその恋人でもあったアリシアの容貌は秀麗すぎる点は理想的である。しかし、エワルド卿は魂も美化された理想像のようでその完璧さが居心地悪くしている。そしてエディソンは女の俗悪さを痛烈に批判するが彼らが行っていることは結局は自分好みの女を作り上げるという男の傲慢なロマンシズムでしかない。目的を果たした彼らに待ち受けていた結末は神になり替わろうとした者への罰か2013/01/10
三柴ゆよし
32
再読。リラダンは実生活では完全に負け組で、友人レオン・ブロワによると、家具ひとつない部屋で、床に寝そべりながら本書の原稿を書いていたそうだが、そんな状況下にあって、かくも抽象的観念的形而上的で、無類に美しく残酷な物語を生み出したというのは、精神の勝利としか言いようがない。科学の魔人エディソン先生(フィクション中の人物です)によって創造された純潔無垢なる魂と至高天にいたる美貌を持ち合わせた人造人間ハダリーの存在をもって、世の女性陣に真ッ向から喧嘩を売る姿勢も、時代が時代とはいえやはり見上げたもの。傑作。2012/12/02
青春パッカパカス
26
「アンドロイド」という言葉が世に初めて登場した本作。1886年発表の古典SF小説である。恋人の性格が下劣すぎるから、彼女にそっくりで性格もいい人造人間を作ろうというお話。人造人間のディティールがSFというより空想科学的で、冗長で退屈なのは130年近く前ということもあり仕方がない。しかし、作者は機械描写に秀でた作家であり楽しく読める。…人造人間を描くことは、そうでない人間を描くことに等しい。人間と機械の恋人、青年はどちらを選ぶのか。幻と共に生きようとする人間が溢れかえる130年後にも、この物語は突き刺さる。2013/04/26
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- 和書
- 「AI思考」は武器になる