出版社内容情報
女だからという理由で延々と雑用をこなす人生に嫌気がさした柴田は、偽の妊婦を演じることで空虚な日々にささやかな変化を起こしてゆく。第36回太宰治賞受賞作。
内容説明
職場にキレて偽装妊娠。第36回太宰治賞受賞。
著者等紹介
八木詠美[ヤギエミ]
1988年長野県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。現在会社員。『空芯手帳』にて第36回太宰治賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
132
太宰治賞授賞作品。34才独身の会社員柴田は、女性だからと雑事をすべて押しつけられる日常に辟易していた。そして妊娠したと嘘をつく。それを理由に雑事を逃れ、まわりからは気遣われ、定時で帰途につく…なんと快適なことか。妊婦を偽装しているが、途中からどうも様子がおかしい。胎児が映るエコー、胎動があったり、ついには出産?えーっ、どこまでが現実?困惑する!でも、最後の産休明けはちょっと気持ちいいかも。2021/11/18
fwhd8325
132
男に何がわかるか、そんなこと言われてもいいんです。面白いです。淡々と物語は進みますが、ある意味スリリングで、緊張感をもって読みました。女性であることの強さを感じます。もちろん。その裏には女性であるが故の理不尽な社会があるんだと思います。著者は、その両面をこの物語で描いています。そして、ラストに女性であることの素晴らしさを訴えているように感じます。2021/03/16
美紀ちゃん
117
太宰治賞の受賞作なので読んだ。雑用が女性にまわってくる悩みはわかる。イライラする。それ誰の仕事?と思う。偽装妊娠していると嘘をついているが、どうするのだろう?とハラハラしながら読んだ。検診のあたりで混乱。モヤモヤしている時には「嘘を持つ」ことにしている。自分だけの場所を嘘でもいいから持っておくと案外別のどこかに連れ出してくれるかもしれない。その間に自分も世界も少し変わっているかもしれない。陣痛の描写があり、本当に産んだのか?空想なのか?わからないまま終わる。でも確かに、職場は変わった。良い方向に。すごい!2021/05/28
sayuri
108
きっかけは時間が経っても片付いていないコーヒーカップ。紙管専門メーカーで働く紅一点の柴田。女だからと言う理由で至極当然の様に理不尽な雑用を押し付けられる柴田の取った行動は偽の妊婦を演じる事。来客への「コーヒー出し」「差し入れ配り」給湯室に溢れる「古紙処理」冷蔵庫や電子レンジ内の掃除、こうした名前のない仕事をまるでロボットにでも言う様に毎日繰り返されたら嫌気が差すだろう。柴田の復讐とも思える妊婦活動は痛快。妊婦キーホルダーを付け、マタニティビクスへ通い、ついには産婦人科での検診。発想がユニークで面白かった。2021/01/12
ネギっ子gen
102
“空っぽの芯”を作る紙管製造会社を舞台に、言葉が言葉を呼んでくる、現代版マリア譚。女だからという理由から、職場で“名もなき雑用”を強要されることが嫌になった柴田は、思わず「今妊娠していて。コーヒーの匂い、すごくつわりにくるんです」と口走る。ラスト良し。<自分だけの場所を、嘘でもいいから持っておくの。人が一人入れるくらいのちょっとした大きさの嘘でいいから。その嘘を胸の中に持って唱え続けていられたら、案外別のどこかに連れ出してくれるかもしれないよ。その間に自分も世界も少しくらい変わっているかもしれないし>。⇒2023/04/10