出版社内容情報
英語圏最高の短編作家と称されるウィリアム・トレヴァーの傑作集。すれ違う言葉が織りなすおかしく切ない一日を描いた「ケーキを食べて酔っぱらった日」、幻想の自己像に囚われた男の滑稽さをグロテスクにあぶりだす「レイモンド・バンバーとミセス・フィッチ」など、新訳4編を含む全8編収載。20分の読書が、読者の世界観を静かに反転させる極上の短編の詰め合わせ。
解説 栩木伸明
【目次】
ケーキを食べて酔っぱらった日
レイモンド・バンバーとミセス・フィッチ
ミス・スミス
午後のダンスの集い
アトラクタ
秋の日射し
マルヴィヒルの形見
聖人たち
「本能的な小説家」登場 ── 少し長めの訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
M H
33
私の貧しい語彙では表現できないが、トレヴァーには全てがある。新訳を含む8篇、しかも翻訳は栩木伸明さん。今すぐ読みましょう(宣伝)今回感じたのは、情報の出し方、タイミングがよく制御されていて、市井の人の事件ともいえない出来事の内にもミステリーとサスペンスが渦巻いていること。思わぬ転換も1行で起きるから版元曰くの20分の読書は無理。どの収録作も極上だけど露骨に怖い「ミス・スミス」、もはや笑える「マルヴィヒルの形見」が好き。栩木さんの端的な解説も有難い。2026/08/21
まこみや
32
登場人物は市井のごく普通の人々である。その人生もとりたてて奇矯なものとは言えない。しかし平凡でありきたりの人々の内実に分け入ってみると、一つとしてパターン化された人生はない。そこには統計的な数字に還元することのできない、何と多くの翳りと豊かな光が満ちていることか。トレヴァーの小説では主人公は勿論のこと、端役の人物でさえ皆それぞれかけがえの無い人生を生きている。彼はその微妙で複雑な陰翳をあたかもサーチライトで照らすように描き出す。的確な人間観察力と絶妙な語りと適正な描写力によって。2026/08/27
ケイティ
30
文庫化されてとても嬉しいトレヴァー短編集。読み進めるごとにその上質さと奥深さが増していき、最後の「聖人たち」のフィナーレ感といい、トレヴァー作品という長編を駆け抜けた満足感でいっぱい。ただ品よく美しい物語ではなく、いつの時代も誰の人生は嵐も凪もあり、混沌とした内面を飲み込んでいく逞しさを感じる。訳者の栩木さんが「人生に対するまなざしは冷静沈着で、ものごとをあるがままに肯定しようとする寡黙な小説作法」というように、書かないことの豊潤さが見事。作風も多彩で、しみじみ素晴らしかった。2026/10/13
星落秋風五丈原
27
「The Day We Got Drunk on Cakeケーキを食べて酔っぱらった日」 友達の所にいった僕は、友人の夫の悩み事解決を頼まれるが、何となく気が乗らない。何度となくルーシーという女性に電話すると。 ルーシーという女性が僕にとってどんな存在なのか、というのが電話の経緯で次第に明らかになっており、主題は実はこれだったと気づく。それにしても、もう一押しが足りないのか、押しても結局はダメなのか。失恋は、まだ決定的ではない気がするのだが。2026/09/13
くさてる
23
「選集」の名に恥じない玉揃いの短編集です。アイルランドのことに詳しければもっと面白く読めるのだろうなあと思いつつ、そこに浮かび上がってくる人と人とのかかわり、心情の揺らめきだけでも十分な思い。しかしやはり私のベストは「ミス・スミス」一級品のサイコホラー、というよりは奇妙な味寄りの怖い話。あと「聖人たち」。なんとも表現しようがない崇高さに満ちた話。そして、この孤独が自分の中にも巣くっているようで怖かった「レイモンド・バンバーとミセス・フィッチ」。おすすめです。2026/10/02




