出版社内容情報
偏見、決められた結婚、友情、文学への情熱、美しい北海道の自然……明治末の女学生・野村悠紀子の青春と苦悩を描く少女小説の傑作。解説 堀越英美
内容説明
明治末の北海道札幌、主人公・野村悠紀子は、文学を愛し、空を眺めることやリンゴ畑に出かけることが好きな女学生。彼女は人から多くの関心を持たれる一方で、偏見、勝手な噂、男子学生からの執着、決められた結婚、家族の無理解などに悩む。そんななか内地の親戚の家に行くことになるが…。北海道の自然も美しい、著者の半生を反映した1940年刊行の傑作少女小説。
著者等紹介
森田たま[モリタタマ]
1894年、北海道札幌生まれ。1911年に雑誌「少女世界」に投書した文章が認められ上京。1913年に小説家・森田草平に師事。1936年刊行の『もめん随筆』(中央公論社、現在は中公文庫)などで随筆家として注目を浴びたほか、本作をはじめ小説も執筆した。1970年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たいこ
13
森田たまさんを読むのは初めてだったけど…今回はあまり好きになれなかった。利発で多感な少女が歓迎されなかった時代に、私は私の人生を自分で選ぶ!という気持ちはよくわかるんだけど、どうにも自分のことしか考えてない甘々のお嬢ちゃんにしか見えず。しかもこれがほぼ自伝と聞くと、自分の少女時代をこんな風に自画自賛できるのすごい…と思ってしまいました。好きになれない朝ドラの主人公パターンに近いかも。2024/04/14
きょん
10
北海道の自然を背景に本を愛し、感性豊かな少女時代を過ごす主人公。しかし明治という時代はささいなことで噂を立てられたりレッテルを貼られたり、家族にまで非難されることもある。現代から思えば本当に生きづらい時代だったのだと思うが、そのなかでも自分らしさを失うまいと生きる主人公のたくましさ。誰にも頼らず1人で生きるのだと決意を決めるその清々しさ。「誰からも離れて、たった一本、山の頂に咲いている桜の花のような女になろう」2024/03/11
真琴
9
「本読む少女は生きづらい」明治末の北海道で文学や自然を愛した著者の自伝的小説。文学かぶれして煩悶が何とか言うだけで不良少女とされ周囲の無理解に苦しむが、理解し背中を押してくれる存在にはどんなに心強かったことか。詩的な自然描写、揺れ動く感情の表現に酔いしれた。2024/04/14
そうげん(sougen)
6
自立心をはぐくんだ少女の、当時の生きづらさの本質がしっかりと描かれた佳品だったように思える。男性だから、女性だからといったことではなく、一人の人間がこの世に生を受けてみて、素朴に育ってみれば、世の中はそれこそ多くの矛盾に満ちている。他人はことさら自分を枠にはめようとしてくる。抗っても受け入れても、生きづらいのは同じこと。この作品の主人公はとにかく凛としている。悩めるときも弱っているときも、とにかく逞しい。精神的に自立しているように思えた。とてもよかった。2024/04/25
すばる
6
「ああ、女の子というものはどんな場合にだって、よそでハムエッグなど食べるものではない。自分はオムレツをたべるべきであった。でなければ林檎を一つかじっておく方が、どんなに上品に見えたかもしれない。」2024/03/31