出版社内容情報
宮地 尚子[ミヤジ ナオコ]
著・文・その他
内容説明
たとえ癒しがたい哀しみを抱えていても、傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷の周りをそっとなぞること。過去の傷から逃れられないとしても、好奇の目からは隠し、それでも恥じずに、傷とともにその後を生きつづけること―。バリ島の寺院で、ブエノスアイレスの郊外で、冬の金沢で。旅のなかで思索をめぐらせた、トラウマ研究の第一人者による深く沁みとおるエッセイ。
目次
1 内なる海、内なる空(なにもできなくても;○(エン)=縁なるもの ほか)
2 クロスする感性―米国滞在記+α 二〇〇七‐二〇〇八(開くこと、閉じること;競争と幸せ ほか)
3 記憶の淵から(父と蛇;母が人質になったこと ほか)
4 傷のある風景(傷を愛せるか)
著者等紹介
宮地尚子[ミヤジナオコ]
一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は文化精神医学・医療人類学。精神科の医師として臨床をおこないつつ、トラウマやジェンダーの研究をつづけている。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たかこ
79
精神科医でトラウマの研究でも有名な宮地先生のエッセイ。「傷を抱えながら生きるということ」について論文では出てこないところや「誰もが抱えている痛み」について、気づきが詰まっている。「ポスト・トラウマティック・グロース(外傷後成長)」、人は傷によって弱められるだけではなく、それによって学び成長することもある。「レジリエンス(傷への抵抗力・回復力)」は、人がただ傷を受けるだけの存在ではなく、打ち勝つ力をもつ能動的な存在である。トラウマ研究は、戦っても傷つかない人をふやす学問ではない。傷つくことについて考える…。2022/12/21
はっせー
58
選書本。トラウマ研究の第一人者の宮地さんのエッセイになる。パリやブエノスアイレス・金沢での旅行先などで思考を広げることもあった。本書をよんで私は傷と向き合う難しさを改めて痛感した!自分自身にある傷は知らず知らずに見て見ぬふりをしがちである。そんな傷とどう向き合うのかを優しく思考している点がとても良かった!2024/07/12
ちゅんさん
52
優しい人、真摯な人って物事を決めつけたりしないし“あれで大丈夫だったか、よかったのか”と内省が多いように思う。著者の宮地さんもそんな人だ。いろいろ迷い悩んで内省が多い。私はそんな人を信頼するし好きだ。帯にある『弱いまま強くあるということ』もいい。みんな何かしら傷を抱えているし、それでも生きていかなくてはならないのだから。だから『傷を愛せるか』なのだ。2024/06/25
こばまり
41
読書に慰撫されるという経験。例えるならば温かい飲み物を飲んだような心地よさだった。なるほど著者はジュディス・ハーマンのお弟子さんなのだな。SNSに流れてきた見知らぬ人の本棚の写真をきっかけに手に取った一冊。2024/12/18
びす男
33
真摯な文体で綴られた、お手本のようなエッセイだった。精神科医の著者が、身体や記憶、心と向き合っている姿が印象的だ◼︎「向き合い方を説いている」と書こうとして、やめた。この本はノウハウ本ではない。むしろ著者自身が、身近な出来事をきっかけに自分の過去を想起しながら、ひとつひとつ折り合いをつけているように見えた◼︎映画や海外生活、書籍、研究活動。あらゆる些事を入り口に、思考は深く、深く潜ってゆく。「傷」を観察し、向き合う仕事を続けてきたからこそだろうか。簡潔ながら、学びと発見がある。本当に良い文章だと思った。2025/01/08