出版社内容情報
破滅へと向かう昭和前期。永井荷風は驚くべき適確さで世間の不穏な風を読み取っていた。時代風景の中に文豪の日常を描出した傑作。
内容説明
戦争へ、破滅へと向かう昭和前期の20年間。世間を見つめる永井荷風の視線はあくまでも低く、驚くべき適確さで世界の不穏の風を読み取る。『断腸亭日乗』を中心に、昭和という時代風景の中に文豪の日常を描き出した傑作。
目次
一筋縄ではいかぬ人
この憐れむべき狂愚の世―昭和三年~七年
女は慎むべし慎むべし
「非常時」の声のみ高く―昭和八年~十年
ああ、なつかしの〓(ぼく)東の町
大日本帝国となった年―昭和十一年
浅草―群衆のなかの哀愁
軍歌と万歳と旗の波と―昭和十二年~十四年
文学的な話題のなかから
「八紘一宇」の名のもとに―昭和十五年~十六年
月すみだ川の秋暮れて
“すべて狂気”のなかの正気―昭和十六年~二十年
どこまでもつづく「正午浅草」
著者等紹介
半藤一利[ハンドウカズトシ]
1930年、東京生まれ。53年、東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを経て現在、作家。『漱石先生ぞな、もし』(新田次郎文学賞受賞)、『ノモンハンの夏』(山本七平賞受賞)、『昭和史』(毎日出版文化賞特別賞受賞)など著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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moonanddai
10
今から見ると暗澹としてしまう昭和の時代に、「颯爽と(?)」背を向けた荷風という生き方を教えていただきました。「日本現代の禍根は政党の腐敗と軍人の過激思想と国民の自覚無き事の三事なり」と、国民というか社会世相までも巻き込むことに納得しました。ある時までは、世の中の悪口を書いては墨で手していたのが、ある時からそれを全くやめてしまうという「覚悟」にもお見それさせられます。にしても、それとは別に、悪い女につかまった話やら、不倫の関係をおおぴらに書いてたりして、笑ってしまいますね。2020/08/12
tsukamg
6
歴史探偵を自称する著者が、荷風の日記「断腸亭日乗」との対比で、戦前を中心とした昭和史を論じる。国全体が否応なく戦争に巻き込まれていく時代に、強烈な個人主義を押し通した荷風の姿が浮かび上がる。荷風が世に背を向けられていたのではなく、世が荷風に背を向けられていたのではないかと思った。2019/11/29
TomohikoYoshida
4
ブレない、そして冷静かつ客観的に日本の行く末を見つめた男、永井荷風と昭和史の物語。世相に動かされることのない思想、姿勢が荷風さんの魅力。2019/02/25
まやか
3
荷風さんは「ふらんす物語」と「ぼく東綺譚」しか読んだことがありませんが、どちらも大好きで、それゆえにこの本を読み始めました。私にとっては意味どころか読み方も分からない言葉がたくさん出てくるので、時間こそ掛かりましたが、ずっと「面白いなあ」と思いながら読むことができました。自分ひとりでは到底読みこなせないであろう「断腸亭日乗」を、こうも読みといてもらえるのは贅沢この上ないですね。そして面白い面白いと読み進めるうちに、自然と昭和の史実にも触れることができて本当にお得な一冊でした。楽しかった。2018/09/04
かわくん
3
荷風の生き方は偏屈だが、理想的でもある。はっきり言ってうらやましい。時代におもねることなく、自分なりに生きていくことはかなり難しい。それを実践したのだからすごい人だと感じた。ただ、半藤氏の筆は少しあちこちに飛びすぎ、冗長な部分が気になった。 2012/07/03