ちくま文庫
カサノヴァの帰還

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  • サイズ 文庫判/ページ数 270p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784480423856
  • NDC分類 943
  • Cコード C0197

内容説明

稀代の蕩児もいまや齢五十半ば。迫り来る老いの身に望郷の念が募る。ところが帰途立ち寄った町で美貌の娘に一目惚れ。だがお手のものの手練手管を弄しても篭絡できず、挙句にはある奸計を想いつくのだが…。カサノヴァ『回想録』の後日譚という趣向をかりた老いのエロスと悪の探求の一変奏曲。精神分析学のフロイトに影響を与えた巨匠シュニッツラーの後期の傑作。

著者等紹介

シュニッツラー,アルトゥール[シュニッツラー,アルトゥール][Schnitzler,Arthur]
1862‐1931。ウィーン世紀末を代表するオーストリアの作家・劇作家。医師

金井英一[カナイエイイチ]
1939年東京生。東海大学名誉教授。専攻はドイツ近代文学・異文化論

小林俊明[コバヤシトシアキ]
1942年長野生。東海大学外国語教育センター教授。専攻はドイツ文学・ドイツ文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

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夢追人009

131
カサノヴァは見下げ果てた悪党だと心の中では解っていても男であれば何処かに眠っている冒険願望が呼び起こされてつい彼に肩入れしてしまいます。加えて作中で描かれる知人からちやほやされ紳士として尊敬される姿や女性を崇拝する心情を吐露し真剣に悩む場面を読むとどうしても憎み切れなくなります。物語の結末は読んでのお楽しみですが、カサノヴァの一度やると決めたら運命までも屈服させ味方にするヴァイタリティーと執念には感心させられましたし危地に陥っても慌てず冷静に切り抜ける生き残りの才能にも拍手を送りたい気持ちになりましたね。

syaori

24
53歳のカサノヴァの、回想録の掉尾を飾るはずだった物語。稀代の色事仕カサノヴァも初老に差し掛かり、追放されている故郷ヴェネツィアからの恩赦を待つ日々です。その日々のなか若く聡明な美女に仕掛ける恋の顛末と彼のヴェネツィアへの帰還が語られます。恋敵ロレンツィとカサノヴァ、カサノヴァと彼より20ほど年上のブラガディーノなどとの対比で「老い」とは何か考えてしまいました。また故郷に帰りブラガディーノに会って若やいだかに見えたカサノヴァが落ちる「夢もなく重苦しい眠り」に潜む静かな老いの影、死の影がとても印象的でした。2016/08/04

刳森伸一

5
愛の遍歴者カサノヴァの晩年のエピソードという体の小説。カサノヴァはヴォルテールに代表される啓蒙主義者(≒理性)の敵として、饒舌や嘘言、姦計などを武器に世の中を渡っていく存在。単純化すれば悪の化身となるだろうか。当初は自信喪失気味であったカサノヴァが次第に本領を発揮し、望み通りの結末を得るところは小説としては面白いが、現実に当てはめると苦慮せざるを得ない。2017/05/07

okadaisuk8

4
「生」、あるいは露骨に言えば「性」そのものの象徴ともいえるカサノバの老年を取り上げるという点がユニーク。当時の時代からすればすでにじいさん扱いかもしれないが、そうはいってもまだコンディション次第では元気でまだまだいける…と思える瞬間もある年齢に設定したところが絶妙で、実際ここでのカサノバは甥を感じたり、まだ十分力はあると、老年へ向き合うことを忘れ(ようとすることに成功す)ることもありと揺れ動くのがおかしく、もの悲しい。ちょっとしたパロディーみたいな感じかな…とおもいきや予想以上に読み応えのある本だった。2019/11/05

しろうさぎ

3
肩の凝らないピカレスク小説という評判通り楽しく読めたが、主人公の「老いの恐怖への抗い」が印象的だった。主人公・作者そして自分の年齢が近接しているため身に染みることばかり。焦りと憤怒、時に被害妄想、反動での悪業。青年期のそれとは違うのが若い時に読んでもわからなかっただろう。今で良かった。冷静な地の文と、夢の供述との絶妙な対比は、フロイトが心酔しただけのことはある。意中の女をものにした遣り口は、偶然か故意か三島の「禁色」と同じだった。次はさらに夢に入り込んだ「アイズ・ワイド・シャット」原作を読んでみたい。2018/07/19

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