内容説明
第一高等中学校時代の夏やすみ、友人たちと房総を旅行した夏目漱石が帰京後、郷里松山で静養する級友正岡子規に宛ててつづった漢文紀行。題して『木屑録』という。「漢文」であるがゆえにあまり知られなかったこの作品の諧謔にみちた味わいを、軽妙自在な名訳であきらかにし、子規との若き日の交友や日本人の「漢文」観にも説きおよぶ興趣つきない一冊。第52回読売文学賞受賞作。
目次
木屑録訳
漱石と子規
「漢文」について
日本人と文章
木屑録をよむ
木屑録活字版
著者等紹介
高島俊男[タカシマトシオ]
1937年生れ。兵庫県相生出身。東京大学大学院修了。専攻中国文学。大学教員を経て、現在フリー。主な著書に、『水滸伝の世界』『水滸伝と日本人』(第5回大衆文学研究賞(大修館、ちくま文庫))、『本が好き、悪口言うのはもっと好き』(第11回講談社エッセイ賞(大和書房、文春文庫))など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Shin
9
学生時代の夏目漱石が正岡子規にあてて書いた旅行記『木屑録』を題材に、漱石が綴った漢文の批評、その背景にある「日本人と漢文の関係」について考察を行う。特に「『漢文』について」「日本人と文章」の章は、日本の言語文化に対する考察として目からウロコ。書き下し文は「漢文」を丸暗記するための「符牒」であって、そこに文学的な要素は無い、そもそも中国語の音調を知らない日本人が漢詩を作るのは、音を知らない人が音符だけで(視覚だけで)作曲するのと同じことである、という指摘は明快かつ痛烈。著者の他の著作も手にとってみたい。2011/08/22
那由田 忠
6
日本寺の首折れ石仏の研究をしている関係で、漱石が羅漢像に関してどんな描写をしているかを見るために読んだ。国会図書館サイトで漢文で読めるが、正直わからんので非常に助かった。きわめて詳細な記述で、羅漢像に関する重要な証言となった。漱石にそんなつもりはなかっただろうが。 筆者は中国語の専門家なので日本の漢文教育を手厳しく批判。言われる通りだ。日本の文章は戦後と戦前、江戸以前と三分割状態。中国は二千年の文言の歴史があるが、現在は口語体で二分割状態、漢字も読めなくなった。アメリカは革命来続くからいいなあ。 2014/02/01
エス
2
絶対にハズレ本のない著者だけに、次に出てくる言葉は何かとワクワクしながら読みました。講談社学術文庫『李白と杜甫』もそうでしたが、門外漢にしてみると一見おカタい分野を、ここまで楽しくわかりやすく描写出来るのはさすが。どことなく故小西甚一先生に通じるものがあるように感じています。2009/08/08
koala-n
1
漱石が大学生時代に書いた漢文の旅行記『木屑録』の現代語訳とその漢文としての評価を行った本。現代語訳と注釈の間に漢文(支那文)とはそもそも日本の文章の歴史にとって何かという説明をした章があるが、興味深いもののこの本の趣旨を考えるとややすわりが悪いように感じた。で、面白かったのは『木屑録』の漢文としての出来を採点した部分。ともすると明治以前の知識人の漢文力は神格化されがちだが、悪文は悪文と手厳しく評価されていて面白かった。漱石はまあまあの腕だったようだが、子規の評価には苦笑(ほとんどとばっちりで可哀想だが)。2013/03/23
nao
1
日本人と「漢文」の関わりについての話がとても面白い。そして『木屑録』に嬉々として朱を入れ批評を加える子規の姿が浮かんでしかたがなかった。2011/10/27