内容説明
東條英機とは何者だったのか。感情的な断罪や讃美を排し、綿密な資料調査と徹底的な取材を通して、なぜ軍人が総理大臣となり、戦争へと突き進んでいったのかを明らかにする。幼少期から軍人の道を歩み始め、やがて戦争指導者となり、敗戦、東京裁判へといたる過程と、その人物像をさぐることで、近代日本の実像へとせまる。あの戦争を歴史として、冷静かつ正確に認識するためにも必読の名著。
目次
第1章 史実なる信奉者(父親の遺産;軍人としての自立 ほか)
第2章 落魄、そして昇龍(実践者の呪い;透視力なき集団 ほか)
第3章 敗北の軌跡(戦いの始まり;快進撃から停滞へ ほか)
第4章 洗脳された服役者(承詔必謹;「戦争全責任ノ前ニ立ツコト」 ほか)
著者等紹介
保阪正康[ホサカマサヤス]
1939年、北海道札幌市に生まれる。同志社大学文学部社会学科卒業。日本近代史、とくに昭和史の実証的研究を志し、各種の事件関係者の取材をとおして、歴史のなかに埋もれた事件・人物のルポルタージュを書く。個人誌『昭和史講座』(年2回刊)を中心とする一連の昭和史研究で菊池寛賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おさむ
49
保阪氏が40歳で著した約700ページに及ぶ重厚かつ緻密な東条英機伝。若い頃のエピソードから見えてくるのは、陸軍で純粋培養された生真面目なエリート武官の一面。2.26事件で上層部がパージされる偶然も重なり「水商売」と貶していた政治家に。ソリの合わない者を遠ざけるという偏狭な性格が、のちの石原莞爾の左遷などを産み、日本を破滅に導いた。「三つ子の魂百まで」ですね。読み終えるのに1ヶ月以上かかりましたが笑、歴史と真摯に向き合い、歴史から学ぶという姿勢の大切さを教えてもらいました。2017/08/20
Tomoichi
27
著者は東条英機嫌いを公言しながらも歴史家として東條の生涯を公正に父・秀教から書き起こす。以前からこの父・秀教に興味があったので(なぜ彼が出世できなかったか)私にはそれだけでも価値がありました。東条英機への評価は難しい。批判するのは簡単であるが、「大日本帝国の最終走者」である彼に全ての責任を負わせるのは酷である。私見ですが、自殺未遂は未遂になったが戦陣訓通りで筋が通っている。生き残ったことで東京裁判で天皇に責任が問われないように主張を通した事は評価できる。私にはやはり悲劇の人です。2019/12/01
藤瀬こうたろー
24
ヒトラーやムッソリーニと並んで絶対悪のように語られる東條英機という人物に焦点を当てた作品です。天皇に絶対服従を誓い、軍人こそが真の日本人であるとして迷ったら軍人勅諭の音読を勧めるような典型的な昭和期の軍人。筆者は人間像をとらえるため、周辺の人に取材し、融通の利かない精神主義、反対意見を許さない偏狭な性格を容赦なく描きながらも一人の人間としては美徳といえる部分も公平に取り上げています。開戦後、全く現実的な対応ができなかったことはこの人の責任ですが、情勢が悪くなると手のひらを返すのは我々日本人の悪い癖ですね。2020/04/14
ステビア
20
優れた東條の伝記であると同時に優れた昭和史でもある。2021/02/20
筑紫の國造
10
保阪正康さんによる、非常に詳細な東條の評伝。執筆当時まだ存命だった東條家の人々や側近などにインタビューし、未発表の史料も駆使しながら書き上げた本書は、最も詳細な東條伝の一つだろう。単に経歴を追うだけでなく、時代的な文脈から東條という人物を分析しているのも面白い。ただ、極力冷静に書こうとしているのはわかるが、やはり所々で東條の言動を悪い方へ解釈している感は否めない。やはり、東條への嫌悪感から調査を始めたのがかなり影響を及ぼしているのだろう。長く参考にされる著書だろうが、その点非常に残念だ。2019/11/20
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