出版社内容情報
アルコール症、妄想症、境界例など「身近な」病を腑分けし、社会の中の病者と治療者との微妙な関わりを豊かな比喩を交えて描き出す。
内容説明
「病気をとおりぬけた人が世に棲む上で大事なのは、その人間的魅力を摩耗させないように配慮しつつ治療することであるように思う」。治療者はもちろん、病者も社会の中で生きてゆかねばならない。しかも、病の進行あるいは治療の過程に伴って、その関係の変数は多様化し、無限に変化していくことになる。では、「治療者というものは、常識と社会通念とを区別して考えるべきである」とする著者は、具体的にどう対処してきたのだろうか。アルコール依存症、妄想症、境界例など身近な病を腑分けし、社会の中の病者と治療者が織りなす複雑で微妙な関わりを、豊かな比喩を交えて描き出す。
目次
1 (世に棲む患者;働く患者―リハビリテーション問題の周辺)
2 (統合失調症をめぐって(談話)
対話編「アルコール症」
慢性アルコール中毒症への一接近法(要約)
説き語り「妄想症」―妄想と権力 ほか)
3 (医療における人間関係―診療所医療のために;医師・患者関係における陥穽―医師にむかって話す;医療における合意と強制;精神病的苦悩を宗教は救済しうるか)
著者等紹介
中井久夫[ナカイヒサオ]
1934年、奈良県生まれ。京都大学医学部卒業。現在は神戸大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はっせー
68
心理学や臨床心理・精神疾患等について勉強したい人におすすめの本になっている!中井久夫さんとは縁があると感じている。この本を読む前に読んだ須賀敦子さんの全集の解説を中井久夫さんがやっていた。これは運命だとおもい読み始めた。内容はおもったより難しくはなかった。学術書よりかは一般向けかと思う。この本は仕事をしながら精神疾患の病気と向き合っている人について書かれている。仕事をする=病気が治ったわけではないが日本では仕事に重きを置いているためそうなりがち。だがそうなってしまうとまた増えてしまう。2023/05/27
ネギっ子gen
58
【一般に、成功は危険なものである。病気を経過していようといまいと、失意の時よりもむしろ得意の時の方が精神的に不安定になりやすい】学術論文から一般向け講演録が収められ、アルコール依存症、妄想症、境界例など身近な病を腑分けし、病者と治療者が織りなす絶妙な関わりを描き出す、好書。解説は、精神科医・岩井圭司。「世に棲む患者」が沁みました。<病気をとおりぬけた人が世に棲む上で大事なのは、その人間的魅力を摩耗させないように配慮しつつ治療することであるように思う>と。本書でも、小さなフォントの付記が、実に味わい深い。⇒2024/05/16
nobi
57
精神科医(治療者)の患者との接し方とかやりとり、その危うい立場含めて書かれている章は双方の気持ちの揺れ動きも見えて小説を読むよう。治療者は何でも分かっている訳ではない“社会通念とか常識とかは一切棚上げして“患者に臨む、と患者は話してくれる、という。ホウーという相槌、診療室待合室は快適に、ある程度の高さの肘掛け椅子を置く、といった心配りもいかに大切かなど、それなら日常的な人間関係にも言えること。そうした親しみやすい語りや講演内容もある中、症例毎の対処法、内科医が精神科的治療することへの警告等専門医的叙述も。2024/11/03
i-miya
50
2013.02.20(初読)中井久夫著。 2013.02.19 (カバー) 「病気をとおりぬけた人が、世に棲む上で、大事なのは、その人間的魅力を磨耗させなないように配慮することである」 病の進行は、無限の変化である。 治療者は、社会通念と、常識と、分けて考える必要がある。 病例ごとのケーススタディ、アルコール依存症、妄想症、境界○など。 2013/02/20
こばまり
41
挑むような気持ちで読み始めたが、口演の書き起こしもあるためか、全体的に例えが平易で分かりやすかった。一方で、医師は理系で科学者である。このように間や空気感を重んじた高度なコミュニケーションスキルを、患者さん相手に発揮できる医師がどれくらいいるのだろう。2025/03/16