内容説明
父・千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘あきは、ある日、観音さまに奉納された算額に誤りを見つけ声をあげた…。その出来事を聞き及んだ久留米藩主・有馬侯は、あきを姫君の算法指南役にしようとするが、騒動がもちあがる。上方算法に対抗心を燃やす関流の実力者・藤田貞資が、あきと同じ年頃の、関流を学ぶ娘と競わせることを画策。はたしてその結果は…。安永4(1775)年に刊行された和算書『算法少女』の成立をめぐる史実をていねいに拾いながら、豊かに色づけた少年少女むけ歴史小説の名作。江戸時代、いかに和算が庶民の間に広まっていたか、それを学ぶことがいかに歓びであったかを、いきいきと描き出す。
著者等紹介
遠藤寛子[エンドウヒロコ]
1931年、三重県生まれ。児童文学作家。三重大学を経て法政大学史学科卒業。三重県下の中学校および都立の養護学校に勤務、教職の傍ら創作に勤しむ。1969年に『深い雪の中で』(講談社)で第1回北川千代賞を、1974年に『算法少女』(岩崎書店)でサンケイ児童出版文化賞を受賞
箕田源二郎[ミタゲンジロウ]
1918‐2000年、東京生まれ。画家。日本美術会、童画ぐるーぷ「車」などに属し、絵本の制作や美術教育運動で活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三代目 びあだいまおう
303
また素敵な本と出合えました『算法少女』約250年ほど前に実際に出版された同名の本を題材に著者が紡いだ和算少女あき(13歳)の物語。関孝和などにより、実は当時の江戸は世界一の数学先進都市でした。この本のモデルとなった書籍は当時唯一「女性が著者の和算本」らしく貴重な資料として今も残る。さてこの本、金儲けのための遊びと卑下されていた算法に長け、ふとしたきっかけで殿様の目に留まったあきの活躍を江戸情緒感ずる挿し絵とともに楽しめる児童書です!九九を用いた歌が万葉集にも載っていたなんて驚き!読みやすい良書です‼️🙇2019/05/28
ehirano1
173
こんな本があったとは・・・いやはや楽しかったですよこの本。算術も学問なのでどうしても学派が出来てしまうのは致し方ないことですね。特に印象に残った箇所は、「・・・そこが算法のいいところ。だれがなんといおうと、正しい答えは正しいのだから(p172)」、「・・・正四角形からはじまって、一兆七千万角形に達する多角形を・・・(p180)」。2016/05/19
へくとぱすかる
161
実在の和算書『算法少女』(1775)の著者、医者の千葉桃三と娘の千葉あきを主人公に、和算の世界を描いたジュニア小説。二人については、名前がわかっているだけであるというのに(あきについては存在さえ疑問視する説も)、ここまで想像を膨らませて、物語に仕立てたのは、素晴らしい。きっとこの作品で、和算のことを初めて知った人も多いだろう。あとがきから、復刊が待たれていたことにも驚き。それだけの価値がある作品だと、読んでみて改めて感じた。2014/04/21
新地学@児童書病発動中
144
数学を学ぶことによって、一人の少女が本当の自分に成長していく物語。爽やかで瑞々しい内容で、読んだ後に胸中をそよ風が吹き抜けていくような感じがした。江戸時代を舞台にしており、主人公が学問を通して社会の歪みに気づくところなどは、司馬遼太郎の物語と共通点があると思う。私のように数学が苦手な人でも普通に読める。素朴で温かみのある文体が素晴らしい。主人公のあきから見た久留米藩主・有馬候の孤独な姿が一番印象に残った。2016/02/14
ぶち
105
実存していた和算書「算法少女」(安永4年 刊)をベースに創作された児童文学で、同じ題を付けたものです。 "算法の世界ほどきびしく正しいものはない。どのように高貴な身分の人の研究でも、正しくない答えは正しくない。じつにさわやかな学問です。" とあるのと同様に、物語自体も実にさわやかなのです。主人公がまだ年若いのにしっかりしていて、周囲の大人の声に流されず、自分で考え、自分の思ったように行動する勇気と度胸を備えています。こういう人たちの個々の努力があって、日本の文化は創られきたんだなあ、としみじみ思います。2019/02/13