内容説明
都市の要諦は歓楽街にあり―アナール派と一線を画しつつ社会史の革命をめざした鬼才シュヴァリエの代表作。夜の巷にひしめく娼婦、ひも、芸能人、無頼漢…脂粉と汚物の匂いただようパリのはらわたモンマルトルの盛衰を、バルザック、ゾラらの文学作品と豊富な資料によりいきいきと描き出す。ほのかな詩情と陶酔にあふれる大歴史絵巻。上巻では十九世紀、歓楽街の誕生からその成立まで。
目次
シカゴから、ブレスト、ハンブルグ、スブーラその他を経て、モンマルトルへ
第1部 歓楽街モンマルトル誕生以前のパリの歓楽(十九世紀前半;第二帝政期;パリ・コミューン)
第2部 『モンマルトル、パリの歓楽街になる』(コミューン直後;事件;歓楽―1889~1900)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ラウリスタ~
11
ルイ・シュヴァリエの業績としては『労働者階級と危険な階級』の方がずっと重要なのだが、日本ではこっちの方が先に訳されている。本書は『労働者…』では十分に扱えなかったパリ北西部の外郭ブールヴァール沿いの歓楽街を扱うが、体系的な研究というよりもこの地に関わるあらゆるものをごった煮にしたような印象だ。郊外地域の発展の極一部(地理的にも、また文化的にも)を扱うため、やはり『労…』を読んだ上のおまけと考えるべきだ。本書では文学作品をほとんどそのまま資料として用いており(ように受け取られかねない)、人口学的分析などなし2020/05/29
ろべると
8
モンマルトルというと、サクレ・クールからのパリ市街の眺望や似顔絵描きが集まるテルトル広場を思い出すかも知れない。これらは丘の上、「光」のモンマルトルだ。本書が描くのは丘の下の方、プールヴァールの雑踏やシャ・ノワールなどのキャバレー、ムーラン・ルージュなどを舞台に、歓楽の限りを尽くし、犯罪の温床となった「影」のモンマルトルだ。この上巻では19世紀までを描く。かなりの大作で正直骨が折れたが、当時の爛熟したエネルギーの噴出を垣間見る思いがして、興味深く読んだ。2023/02/02