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内容説明
パリのプールサイド。見知らぬ女性、たわむれの手の仕草、多彩な色どりの風船を恋人めがけて投げたかのような。それを目にした「私」の心に、「アニェス」という名前が浮かんだ…。詩、小説論、文明批判、哲学的省察、伝記的記述、異質のテクストが混交する中を、軽やかに駆け抜けていくポリフォニックな物語。存在の不滅、魂の永遠性を巡る、愛の変奏曲。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
saeta
12
所有する92年の初版本から10年に一度ぐらい再読しているだろうか、この作品も文句ない傑作だ。本人も登場する現代の物語とゲーテの逸話を交互に絡み合い進行して行くフォーマットだが、ストーリーより細部の枝葉のようなエピソードがとりわけ読み応えがあったが。完全ロバや黒いサングラス、アヴェナリウスのタイヤパンク活動など。サイドストーリー的なルーベンスの文字盤の章もキチンと繋がっていたり、この辺も良く計算されている。死に至る顔について、とても印象だった。ポールが接するアニェスの「一度として見たことの無い微笑み」2022/07/11
さつき
4
「人生において耐えられないのは、存在することではなく、自分の自我であることなのだ。(中略)生きること、生きることには、なんの幸福もない。生きること、世界のいたるところに、自分の苦しむ自我を運び回ること。しかし、存在すること、存在することは幸福である。存在すること。噴水に変わること、宇宙が温かい雨のように降り注いでくる石の水盤に変わること。」2014/03/18
ponkts
2
クンデラを理解するためにクンデラである必要はないが、彼のもつ音楽的センスと数学的思考を多分に要求する小説であるなと感じた。「人多けれど想念少なし」の観念から分かるとおり、クンデラの問題意識はすべての著作において実存の変奏曲となってあらわれている。彼の小説が短調と長調で紡がれる七部構成を意識しているという指摘も説得力があり、『不滅』では変奏曲は<歴史>によって支えられ、<イメージ>によって調律される。現代と過去を自在に接続し、仮構モデルのなかを闊歩してみせる手腕はこれはもう文才以外のなにものでもないだろう。2013/03/18
pio
1
クンデラは面白いなあ、、何度かアハハって笑った。すごい理屈っぽいところが好き。あと、第四部のホモ・センチメンタリスの「その感情を感じている自分に価値があると思う」というの、すごい今っぽいなあと思った。2021/02/08
毒モナカジャンボ
1
存在が前へ前へ進もうとする「歴史」が終わり、ただ移動するだけになった現代で、不滅、それに関わることのない愛は一体何を意味しうるのだろうか。イデオロギーがイマゴロジーに屈服する。際限なく無根拠に繰り返される更新のための更新。そんな中、とっくに乗り越えられていると思われたはずの愛の前-性交性は、ヨーロッパ近代の中心、ゲーテとベッティーナの関係を根源に今まで続いていることが明かされる。存在しない小説の登場人物を不滅にするために総動員される歴史。この壮大な天球儀の影で、クンデラは悪戯っぽく嗤っている気がする。2020/12/04