内容説明
ドイツ伝来の精神史研究と社会学的方法の成果を用い、すばらしい切れ味の文体分析により、ヨーロッパ文学のミメーシス―、文学理論の根底に横たわる現実描写の流れを追求する。ホメーロスからヴァージニア・ウルフにいたるヨーロッパ文学の本質をとく画期的文学論。1946年に出版されて以来、学者・批評家のみならず広く世界中の文学界に激しい知的興奮をもって迎え入れられた不朽の名作。全二十章のうち、本巻ではラブレーからヴァージニア・ウルフまでの十章を収録。
目次
第11章 パンタグリュエルの口中の世界
第12章 人間の本性
第13章 疲れた王子
第14章 魅せられたドゥルシネーア
第15章 偽信者
第16章 中断された晩餐
第17章 楽師ミラー
第18章 ラ・モール邸
第19章 ジェルミニィ・ラセルトゥー
第20章 茶色の靴下
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
8
崇高と低俗を区別したギリシャ的文体と聖なるものの低俗なものへの受肉として混交させたキリスト教的文体の争いは、ギリシャ的喜劇において真の現実を描こうとした『神曲』に集約され、真なるイデアの流出としてのプラトン的ミメーシスにない、現実を真と見なす新基準を作る。一方、まだ崇高と低俗の区別を詩と散文に分けて保持していた古典主義を破壊するのは、実験装置として文学を捉えたフランスの科学的リアリズムである。著者は、実験瞬間を捉える役を果たす文字が、現在の中に意識の流れを見るウルフ、プルースト、ジョイスを用意するとした。2020/02/08
tieckP(ティークP)
4
いかに文章は現実を(それは感覚においてだけでなく、社会において、歴史において、内面においても)写し取り、適切な文体にたどりつくか。この観点から要所ごとに作品を選んで切れ味鋭く分析してみせる。近代以降を扱った下巻の方がさすがに読みやすい。アウエルバッハが理想とするゾラあたりが優れた小説か、また好みの小説かと言われると共感はできないが、論に説得力はある。1940年代に書かれた本を、半世紀以上あとに読むことで感じる違いも面白い。とはいえ疲れたのも事実である。同じことを繰り返し言うのが割と好きな著者のようだ。2014/08/13
Z
3
名著。特にフランスリアリズム、ロシア文学への視点、そして意識の流れにたいする考察は面白い。ゲーテ嫌いの私には、著者のフランスリアリズムと対比したゲーテの欠陥には喝采。スタンダール、バルザック、ゾラ(ゾラは触れられてないが)この三者に生物学に対する関心が共通しているのが驚き。動物は環境に規定される。個人とその環境の歴史との絡み合いを書くという、小説は時代を書けというような、理念の起源。意識の流れ、一度外部を意識に還元する。外界は意識を触発するきっかけに過ぎず、意図あるいは思考の主題に制限されず2015/04/11
misui
2
およそ三千年におよぶヨーロッパの文学作品の「描写」を検討しその様態の変化を見るというもので、上巻のダンテ論が良かっただけに下巻はちょっと勉強で読む感じになってしまった。取り上げられている作品や時代が気になった時に参照すればいいのでは。「民衆の心にうつつをぬかすなどということはシェイクスピアにとって全く縁の遠いことであった。そればかりではなく、啓蒙主義や、市民道徳や、情操の育成などの予兆もシェイクスピアの中にはみえない。」2021/04/15
my
2
シェイクスピアとモンテーニュ、ドンキホーテのところを再読。やはり文学研究の礎となる本であり、必読。考察の緻密さと着眼のまばらさが好きだな。2011/08/28