出版社内容情報
関東大震災直後に報道された、朝鮮人虐殺を正当化する様々なフェイクニュースが、現代の虐殺否定論を生んだ。長年新聞社に勤めた著者が、報道の責任を総括する。
内容説明
「関東大震災における朝鮮人虐殺はなかった/少なかった」「正当な自衛行為だった」。学術的には顧みられることがなかったこのような「虐殺否定」論が論文となり、ケンブリッジ大学出版局刊行の書籍に収録される予定があった。執筆者はハーバード大学教授。論文を読み進めてみると、主張の根拠とされているのは当時の日本の新聞だった。震災直後の混乱のなかで紙面に躍ったフェイクニュースは、なぜ、どのように生まれたのか。長年新聞社に勤めた著者が、報道の責任を総括する。
目次
第1章 ラムザイヤー教授の論文を読む
第2章 論拠の資料を確認する
第3章 論拠の新聞記事を読む
第4章 一〇月二〇日前後の新聞記事
第5章 東京大学新聞研究所の研究
第6章 虐殺はなぜ起きたのか
著者等紹介
渡辺延志[ワタナベノブユキ]
1955年生まれ。ジャーナリスト。2018年まで朝日新聞社に記者として勤務し、青森市の三内丸山遺跡の出現、中国・西安における遣唐使の墓誌の発見、千葉市の加曽利貝塚の再評価などの報道を手がけた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
67
ハーバード大のラムザイヤーという教授が発表した関東大震災時の朝鮮人等の虐殺に関する論文を批判的に検討する。極めて雑な論文であることが明らかにされている。しかし本書の価値はそこから踏み込んで、教授が根拠とした当時の新聞報道の本質に迫ろうとするところ。その際安直な陰謀論等は退け、当時の混乱した状況から人々の心理などに基づいて推定する。在郷軍人が中心の自警団のあり方、虐殺(事後政府も認定している)に対する事後における世間の関心の低さ、そして自分が当時記事を書いていたならとする著者の自戒など、一読に値すると思う。2022/01/02
Satoshi
14
一部の右翼系の識者に絶賛されたラムザイヤー教授による関東大震災の朝鮮人虐殺に関する論文について検証している。フェイクニュースに基づいて、朝鮮人に対する集団暴行が発生し、ラムザイヤー氏は新聞が発行したフェイクニュースをもとに論文を書いた。フェイクニュースは震災の混乱の中、人づてに広まって新聞記事にまでなった。この事件の正当化は難しいと思うのだが、、、、2022/09/03
jamko
12
ラムザイヤー教授、慰安婦のことだけじゃなく関東大震災の朝鮮人虐殺についてもおかしな論文出してたの知らなかった。その論文の根拠となった当時の日本の新聞記事を元記者である著者が詳細に検証する。自警団の中心であった在郷軍人=大陸や半島からの帰還兵の抑圧された戦争体験が、流言を容易に信じ込ませ虐殺につながっていったという推察はなるほどと思った。最前線に行かされた貧しい若者たちが戦争体験で心を病み、それが虐殺のトリガーとなってしまったとしたら。2021/08/09
二人娘の父
11
前著『歴史認識 日韓の溝』(ちくま新書)から、さらに関東大震災時の朝鮮人虐殺事件を深掘り。ラムザイヤー論文を参照しつつ、その虚構と論文が依拠した当時の新聞報道の詳細を探究。新たに学んだのは著者の資料へのアプローチ方法である。「あとがき」で書かれているが、新聞記者として著者は災害時における「新聞の興奮」を素直に吐露している点。大きな災害になればなるほど、それを報道する新聞社、今日的にはマスコミ全体が、ある種の熱狂状態におかれ、何かが狂ってしまうとそれがフェイクニュースの発信源になるという自戒は教訓的である。2021/09/14
紫草
9
関東大震災の時、朝鮮人が「放火をした」「井戸に毒を投げ入れた」などの流言を信じた人々がたくさんの朝鮮人を虐殺した。虐殺の中心となった自警団の中には朝鮮戦線からの帰還兵が少なからずいた事、また一般と市民の間にも「植民地にされた朝鮮人が日本に不平を抱いている、この期に仕返しされることもありうる」という意識があったであろうことが、流言を簡単に信じて虐殺に向かってしまったとの筆者の論に納得。それにしてもラムザイヤー教授という人は、なぜちゃんとした資料にあたらず不確かな資料から論文書いちゃうのか。学者のはずなのに。2021/10/16