出版社内容情報
2019年から続くデモ、中国大陸の同化政策、日本のサブカルチャーの受容や大日本帝国の記憶……香港出身の研究者が香港の現在と「日本」を考察する。
内容説明
二〇一九年の「逃亡犯条例改正案」への反対デモは熾烈を極め、多くの負傷者を出し、その戦いの終わりは未だに見えない。香港がこのような事態になったのは、どうしてなのか?中国大陸の同化政策は、人びとにどのような影響を与えたのか?本書は、香港人としての実感と研究者としての分析で、現在に至る香港の変遷を考察する。また『ドラえもん』『進撃の巨人』と香港政治運動の意外なつながり、大日本帝国の記憶など、香港における「日本」の表象を詳細に分析する。香港出身の気鋭の若手研究者による、日本人のための香港入門。
目次
第1部 「準都市国家」香港(香港とは何か―「準都市国家」を旅する;香港の主体性―国籍・「中国」・日本;二〇一九年の香港―運動と分裂)
第2部 香港と「日本」(香港と日本アニメ―表象・記憶・言説;日本イメージの変容とアイデンティティ;戦争の記憶と「中国民族意識」;戦争の忘却・想起・香港アイデンティティ)
著者等紹介
銭俊華[チンチュンワ]
1992年香港生まれ。香港浸会大学卒業。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在籍。専門は地域文化研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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禿童子
36
若い学究の力作というよりは、行間から魂の叫びが聞こえてきそう。ご両親は大陸出身なので「双非」のポジションですが、香港を「都市国家」と位置づけるのは本土派(香港を本土と見る香港民族主義)のアイデンティティーですね。第二次世界大戦で日本軍に占領されて解放された歴史に自分を重ね合わせて、かつての日本軍に中国共産党を代入するのが2019年の香港の若者の意識と分析する。国家安全維持法で一国二制度を前倒しで解消して同化を進める北京への抵抗がどのような形を取るのか、実力行使を辞さない勇武派への共感が気になるところです。2020/08/03
踊る猫
30
フレッシュな本だと思った。ルサンチマンに囚われていないというか、脂ギッシュに日本を恋するのでもなく反動的になるのでもなく、ニュートラルな立場から香港と日本の文化を洗い直そうとしている。書き手の若さがいい方向に働いたと言えるだろう。果たして見えてくるのは政治的に混迷を極めて迷走する香港の姿ではなく、日本の文化を愛しながらも日本を微妙な立場から受け容れようとしているそんな穏やかな香港の姿だ。この本を片手に他の香港を語った本に入っていけばいい、とさえ言える(だから、逆にこの本だけを単独に読むのも若干違うと思う)2020/08/22
ヲム
28
これまでの日本と香港の結びつきや過去の歴史から現代のデモ活動なども触れられていて、よく分かりました。 著者が同年代ということもあり、目線的にも通じるものがあり、読みやすかったです。2020/07/14
さとうしん
18
香港人の目からは、香港の中、大陸中国、そして日本がどう見えているかという香港人の世界観のサンプル。ただしそれが香港人の世界観の最大公約数と見てよいのかどうかはわからない。著者の大陸人への目線は、多くが大陸から来たはずの香港人自身の父祖への視線として跳ね返ってくるのではないだろうか。それが本書で触れられている家族との「政治闘争」の背景になっているのではないか。2020/06/14
紫の煙
17
著者は1992年生まれの若い世代である。前半は香港人のアイデンティティについての解説であり、興味深い内容だった。中盤は、日本のアニメや漫画カルチャーとの関わり。後半は、戦争記憶の扱いについて。香港からの留学生の視点での考察であり、「香港と日本」というタイトルを内包したものとは言い切れない。 2020/07/11