内容説明
「方言は矯正すべき」という時代から、方言を記録する時代を経て、様々な方言を楽しむ時代へ。本書は、こうした方言意識の変遷を糸口に、方言と外国語との関係、また標準語の方言的背景をつきとめてゆく。京都から広まったことば、江戸・東京から広まったことば。一つ一つ丁寧に見ていくと、現代日本語は千年で千キロ、日本列島を移動してきた長い旅の歴史を背負っていることが明らかになる。実地調査と分析と発見を繰り返しながら、「動くものとしてのことば」を社会・歴史・地理の座標軸に位置づけなおす、壮大でスリリングな日本語論。
目次
第1章 プラスになった方言イメージ(言語の下位区分としての方言;方言のステレオタイプ;日本の方言区画地図を重ねると ほか)
第2章 方言に入った外来語(言語間方言学という視点;アイヌ語と東北方言の相互接触;中国語から入った近世方言 ほか)
第3章 標準語普及の3段階を復元する(東京と京都からの鉄道距離別標準語使用率;鉄道距離という発想;中学生の標準語使用率に働かない鉄道距離 ほか)
著者等紹介
井上史雄[イノウエフミオ]
1942年山形県生まれ。1971年、東京大学大学院言語学博士課程修了。東京外国語大学外国語学部教授を経て、明海大学外国語学部教授。専門は社会言語学・方言学。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たろーたん
2
覚書。面白かったのはNHK方言イメージ調査。自身の方言が好きなのは沖縄や北海道。まあ好きで恥ずかしくないと思ってるのは大都市に多く、京都、東京、大阪、神奈川、兵庫はらしい。ちなみに、北関東・北陸は方言が恥ずかしく嫌いと思う人が多く、茨城、福井、栃木、石川、富山など。方言は恥ずかしくないが嫌いなのが、都市近郊なところが多く、滋賀、奈良、埼玉、千葉、愛知がそれにあたる。勤めは大都市だけど住んでるところは安い土地の郊外ってのが方言を嫌いにさせてるのかも。2021/12/14
bittersweet symphony
1
ドイツで日本語を学ぶ学生向けの講義を基にした本です。出版社の紹介も含めタイトルからして歴史言語学的な内容かと思いきや、データ解析を中心とした社会言語学の考え方についての解説がメインだったりします。方言ということで言えば、方言を日本語のサブセクションと断定せずに、各言語グループ間の総合作用的な観点で近隣言語との親和性も含めて扱おうとしているところに特徴があります。鉄道移動距離と標準語/共通語伝播の関連性とか、古い語彙の京都(西日本)中心の伝播ルートの存在とか情報としては目新しい印象はないですけれど。2008/09/19
坂津
1
時代ごとに見た方言についてのイメージや、標準語が成り立つ過程をつぶさに観察する一冊。時代を経るごとに方言に対するイメージが改善していることは、この本でも紹介されていた内容だが、地方での方言土産が増えていることで示されているのだろう。また、近世までは京都が、明治以降は東京が中心となって標準語が地方へと広がっていく過程がグラフとして示されており、柳田國男の『蝸牛考』を彷彿させる。講演の内容を下地にしているため読みやすくはなっているが、その分冗長であったり逆に分かりにくい箇所も見られた(「あとがき」でも言及)。2015/07/16
編集兼発行人
1
日本の方言を社会歴史地理の三方向から考察した講義録。共通語と方言を使い分ける心理。上京志向者の共通語化と地元志向者の方言化。方言の蔑視から記述を経て娯楽へ至るまでの経過と近代化との相関。共通語への嫌悪と感謝。社会的強者としての四十代五十代に媚びる国営放送での言語。古い言葉であるほど京都もしくは東京から最も離れた位置にまで及び全国的な広がりを見せることを証明する様々な二次元グラフ。東西の空間的境と十四世紀という時間的境。日本語の「乱れ」感覚と長寿化との相関。言語の変化を根気強い調査によって詳らかにした好著。2013/05/12
Humbaba
1
言語というのは,常に変化し続けている.また,変化というのは少しずつ,しかし確実に伝わっていく.年速数キロメートルという非常に遅い速度かもしれないが,人と人とが触れ合って初めて言葉が交わされるということを考えれば,納得できる速度であるといえるだろう.2012/01/29