感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
けいちゃっぷ
10
ツイッターで少し古い本をぼそっとほめているのを目にして読みたくなることが何度かある。 これもツイッターで「発見」した一冊なのだが・・・。 チュニジアに滞在中のアメリカ人作家が現地のコソ泥を殺してしまった(かもしれない)。 だが死体(あるいは怪我人)は誰かが運び去ったのか見つからない。 主人公の内面はこの「事件」によって徐々に変わってしまったのか。 しかしながら話は淡々としていて、純文学を読んでいるかのよう(読んだことはないけど)。 難儀といえば難儀な読書体験でした。 419ページ 2015/09/19
J.T.
6
いつものように淡々と主人公とは距離を置いて読み始める。ハイスミスの登場人物には、容易に同情出来かねる場合が多いからだ。この小説も最後の、本当に最後のほうまでは突き放して読んでいたのだが、あることがきっかけで、急に主人公と喜びを分かち合いたい気持ちになってしまった。読後も一瞬爽やかなのだが、この爽やかさがこの小説の問題点なのだ。警戒していたのに見事に騙された感じを味わえた。ハイスミス凄い。既読のハイスミス作品とは違った面白さ。吉田健一の訳、いいとは思えない。2017/09/11
gerogeC
3
精神生活が完全に社会の埒外にある人間でないかぎり、自分が築いた城に立て籠っている人間にもかならず精神的に依存する相手がいて、それを繭の中と思うか牢獄と思うかは当然気の持ちようで、その相手が異性だったとき(この主人公は異性愛者なので)はより事態が深刻になる可能性がある。そんな状況で相手のものの考え方、とくにその道徳が自分とはまったく相容れない世界の定規だと初めて気がついたときに、身の振り方をどう考えるか。2023/01/29
kinka
3
60年代、独立早々のチュニジアに滞在することになった米国人作家が体験する日常と非日常の話。物を書き、異国に遊び、知り合いと交流し、恋人と楽しむ日々、しかし彼はNYに住む友人の自殺に関わりがあり、また、確かにこの地で殺人を犯している。死に囚われるでなく、益々淡々と過ぎる日々、そしてむしろ捗る仕事。罪という概念がぼやけてくる、というより罪を糧にしているように見えるのは、アフリカの魔力か、それとも彼の性質ゆえか。「偽造して震える」という原題ではあるが、最後まで彼は震えたりしない。偽物なのは罪や道徳自体である。2016/08/13
h
2
『インガムは何かで、どこか地中海の沿岸に住んでいた男がその村からよそへ連れて行かれた話を読んだことがあった。その男はその家族、友達、近隣のものなどが彼をそうと考えていたもの、彼らがその男について持っていた意見の反映に過ぎなくて、それでその人たちがいなくなるとその男は精神的に崩れ去ったのだった。そして人間にとって何が正しくて何が正しくないかということも廻りのものが言っていることで決まるのだとインガムは思った。』2014/11/23