内容説明
60年の歳月を閲して成ったゲーテ生涯の大作を、曲折自在な口語訳で本邦初紹介した、文豪訳業の粋。
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あつくなれ!!本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
97
《日はあそこを駆けて行って、また新しい生活を促すのだ。/己のこの体に羽が生えて、あの跡を/どこまでも追って行かれたら好かろう。/そうしたら永遠なる夕映の中に、/静かな世界が脚下に横わり、/高い所は皆紅に燃え、谷は皆静まり返って、/白銀の小川が黄金の江に流れ入るのが見えよう。》…父の錬金術に対する悔恨と、限りない飛翔願望。そのとき力を貸す悪魔は、人の生にくり返し現れる淫行、裏切り、耽溺? 異国の作品に自らの感情を見出し、自国にはまだそれがないことを知った鷗外は、どのような思いでこれを訳したのだろう。2019/08/15
syaori
47
ファウストとメフィストフェレス、この有名な二人の遍歴は何と心を踊るものだったことでしょう。可憐な少女との恋があるかと思えば美女へレナを求めて異教の神々の間を彷徨い、大帝国の騒擾を平定する。魔女の哄笑やホムンクルスの放つ光、セイレエンたちの歌声に彩られた旅は、まるで暗闇に次々と打ちあがる美しい花火を見ているような華やかさ。結局壮大なこの本を理解できたのかは疑問なのですが、神や悪魔、人間が錯綜するこの物語が私の心を擒にしたのは、ファウストとともに生きた作者の「肺腑から流れ出た」ものだからなのだろうと思います。2017/12/29
ピンガペンギン
26
20代で購入した本書をやっと読了。ファウストは人生に絶望していた。そこに悪魔メフィストが表れ「時よ、とまれ、お前は美しい」とファウストが口にしたら、魂を自分に明け渡せという。第一部(1808年)はファウストがマルガレーテと会って彼女が悲劇に沈む。鷗外の訳は読みやすいが、大部なので飛ばし気味に読んでいて、ファウストの悩みに親近感がなく、メフィストがコミカルにしゃべるので、それに助けられて読みすすんだ。第二部(1833年)はギリシャ・ローマ神話の海の神が出てきたり、メフィストが闇の女フォルキアデスに変身→2025/09/19
しんすけ
7
人生を踏む長さに比例して面白さが滲みだしてくる本かもしれない。そして、鴎外の現代風訳文は、さらにそれを裏付けてくれるような気がする。最後の最後(12104行)にある下記は、泡沫が人生でもあることを自覚したゲーテの心境なのであろう。/一切の無常なるものは/ただ影像たるに過ぎず。/ゲーテは83歳で亡くなる直前まで『ファウスト』を書き続けている。執筆期間は25年ほどだが、構想から数えると生涯をかけた作品と云える。2018/02/19
hitotoseno
7
日本史上屈指の文豪が、ドイツ史上、いや世界史上最高の大作に挑んだ記念碑的著作。これを読めばなぜ鴎外が「舞姫」においてあのような物語を認めたのかいくらか知れるところだろう。悪魔メフィストフェレスに己を売って俗世の快楽と天井の幸福をことごとく求めた魔術師ファウストに対し、太田豊太郎はたかだか黎明期の近代日本における出向官僚に過ぎない。愛しき女の血族を殺してでも愛を求めようとしたファウストに引き換え、かよわきエリスを置き去りにした太田には何の魔力も備わっていない。本書はさしあたり、2016/03/29




