内容説明
「もしこの作品に欠陥があるとすれば、それはあまりに面白すぎるということであろう」(あとがきより)。仏頂面の不気味な大佐、奇怪な会見、秘密の鍵を握ったまま息を引きとった老婆―謎めく事件の蔭にひそむ陰謀。短篇小説の形式をとり、一篇一篇読み切りになっているがアシェンデン(モームの分身)という一作家スパイを通じて長篇の体もなす体験小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かもめ通信
24
モーム自身が第一次大戦中、英国の秘密情報部員として活動した時の経験を元にして書いたという“スパイ小説”。山場となるような大きな事件も、手に汗握るアクションもないが、作家と諜報部員という二つの視点から考察するあれこれや、各国のスパイや工作員たちとのかけひきが、個性的な面々の魅力を際立たせるだけでなく、はっきりと語られることのない“全体像”への想像をかきたてるちょっと変わった読み心地の作品だった。2023/07/17
tama
13
図書館本 装丁が和田誠さんという情報で借りたけど違った・・・。でも内容は面白かった。というか凄く読ませる文章。サマセット・モームお初。翻訳もいいからなんでしょう。シベリア鉄道の話にアメリカ人が出てくるが「マナーは完璧で・・・善良な心を反映し・・・誰にでも進んで親切を尽くし・・・人並み外れて世話好き・・・自己満足は底抜けで」。これ「アメリカという国」の性格そのものじゃないの!?モームすごい!2016/05/01
きりぱい
9
感謝の言葉ひとつもらえないし、助けも望めないがとスパイを依頼された作家アシェンデン。コードネームRと呼ばれる大佐からの指令、見張っているのか見張られているのか、任務遂行に緊迫感があるかと思いきや結構のんびりしていて、そこがまた、事実はそう劇的でもないのだと、モームの実体験から人間観察濃く描かれているのが面白い。毛無しのメキシコ人やハーバート卿の独白が迫力だったり、踊り子ジューリアやケイパー夫人が哀れだったり・・。2010/02/28
masawo
4
「月と六ペンス」に続き読了。第一次大戦中のスパイ小説だが、飄々とした主人公の言動やユーモアの効いた会話・描写が印象に残った。お国柄を生かした登場人物のセリフやアシェンデンとの会話の応酬がいちいちウィットに富んでいるので飽きがこず、小気味よいイギリス感に浸ることができた。2017/08/11
nightowl
4
前半、余り本調子ではない感じが「踊り子ジューリア・ラッツァーリ」から勢いを増していく。ちょっとした一言で締めるのがモームは本当に上手い。人間の絆中巻で女性に長々と翻弄される場面が続いたのに疑問を覚えたのも「大使閣下」で言いたかったことが分かりすっとした。面倒臭い旅のお供とアシェンデン自身の過去の女性が登場する「シベリア鉄道」~「ハリントン氏の洗濯物」も非常に生き生きと人物を描いており、人への思いの深さを感じられる。最後も流石の切れ味。本国収録の「サナトリウム」が外されたのも納得。ただ、"チェッコ人"は…2015/09/12