内容説明
敗戦直後の廃墟の東京で、獣になって身を売る若い女たちの集団。その中に突然現われた一人の男をめぐって起こるドラマを描いた表題作「肉体の門」。戦場の中国を舞台に、死と隣り合わせた欲望のひしめく中で、民族・思想・立場をこえた“人間”のつながりを求める男女の姿を描いた「肉体の悪魔」「春婦伝」「蝗」。さらに彼の主張を集約したエッセイを収め、田村文学のエッセンスを贈る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
空猫
34
映画を観たので。原作は短編だった。18,9才で突然天涯孤独になった、それも少女が、生きて、食べていくためには、自分以外のものを全て呪うのだ。誰も自分をかばってくれないことを自覚し、奮い立たせるために…。これを書きたいが為の作品だろうか。話自体はぷっつりと終わる。→本は入手困難なので「文学全集」の内『肉体の門』のみ読了(一冊で読んだ方が良さそう) 映画は五社監督作品。娼婦のグループとそこへ転がり込んだ男という設定が同じで後はいつも通り暴力とエロ満載だった。西川峰子サンって美乳だったのね(゜゜;)\(--;)2022/02/15
松本直哉
14
集団の中で自らの意志も判断力ももたず、盲目の飛翔を続ける蝗の大群はそのまま中国大陸を横断する兵士らの暗喩であり、そこではいかなる思想も善悪の判断基準も意味を喪い、肉体の苦痛と欲望だけが彼らを突き動かす。慰安所に長蛇の列をなす兵士らの滑稽なほど忍耐強い性欲。瀕死の重傷を負った慰安婦をなんとかして運ぼうとする兵士を冷然と突き放して見捨てろと命ずる上官。さんざん性のはけ口にされた挙句ひとり見捨てられて死んでゆく慰安婦の絶望を想像しながら、胸のふさがるような重い読書を終えた。2015/05/06
ankowakoshian11
5
映画『肉体の門』『春婦伝』を観たので原作を読んだ。映画の内容の補填になったが、一読では消化しきれておらず記録のみ。2023/10/15
ナリボー
3
9/10 戦後すぐに出版されたとは思えない迫力と生々しさ。肉体こそ人間という概念そのままに、戦中、戦後の大動乱の時代のリアリティが伝わってきた。有楽町から勝鬨橋まで売春婦がひしめき合っていたというのは今では想像がつかないが、描写も生き生きとしていて今読んでも情景がありありと浮かぶ。2021/02/16