出版社内容情報
日本の文学にとって近代とは何だったのか? 文学が背負わされた重い課題を捉えなおし、現在にも生きる「教養」の源泉を、時代との格闘の跡にたどる。
内容説明
「近代」とはいったい何だったのか?ラディカルに近代化を果たさねばならなかった日本では、その文化的側面の多くを「文学」が背負うことになった。役割を担わされた文学は「新しさ」を表出するために進出し続けた。その進化論的パラダイムにとりつかれた時代との格闘が「教養」の源泉となり、現在まで私たちの底流で生き続けている。テクスト分析を駆使し、日本近・現代の文化的慣習の形成過程をくっきりとあぶり出す斬新な論考。
目次
第1章 文学史と観察者
第2章 進化論の時代
第3章 なぜ主人公が必要なのか
第4章 物語と主人公の力学
第5章 固有名という装置
第6章 写真が与えた衝撃
第7章 表情を読む感性
第8章 苦悩を書く文体の誕生
著者等紹介
石原千秋[イシハラチアキ]
1955年東京都生まれ。成城大学大学院文学研究科博士課程後期中退。東横学園女子短期大学助教授、成城大学教授を経て、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専攻は日本近代文学。夏目漱石から村上春樹までテクスト分析による斬新な読解を提供しつつ、国語教育への問題提起も果敢に行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ロッキーのパパ
14
明治期の文学作品を題材に日本の近代を詳しく掘り下げている。同時期に掲載された夏目漱石と小杉天外の比較が興味深い。今売りだせば小杉天外の方がエンターテイメント小説として売れそうな気がする。それでも、漱石の方が残ったのは時代を超える価値があったってことか。2013/05/18
壱萬参仟縁
10
書名には関心があったものの、内容まではなかなか、門外漢の評者にはついていけなかった。岩井克人先生の貨幣論は少し理解できる(147頁)。この間、高校現代文に共通地の悲劇論も取り上げられてあったので。「命がけの飛躍」なんて概念は初めて知った。商品が貨幣体系に組み込まれることらしい。夏目漱石の色々な著作分析や、白樺派の検討は今後の課題にしたい。2013/06/21
ハチアカデミー
8
近代はおそらく、終わっていない。いまなお進化論的パラダイムの中に私たちはいる。その創世記に書かれた文学作品、主に漱石を俎上に、それらの成立史と広がっていく過程を追わんとした一冊。フーコーと絡めつつ、近代のまなざしを論考した「文学史と観察者」「写真が与えた衝撃」の二章が特におもしろい。自然主義文学・さらにはその先の私小説のテーゼともいえる「無理想無解決主義」の萌芽を、坪内逍遥『小説神髄』に見いだす指摘は至極鋭い。近代文学成立期のおもしろさを再確認。とはいえ、タイトルの「教養」はやや強引か。2014/04/11
mstr_kk
4
第一章、第二章は、「できるだけ色眼鏡なしで、生まれつつあった近代なるものを、明治〜大正期の文学から読み取ろう」という準備作業。その後、「主人公」論、「固有名」論、描写論と、近代小説の各要素の成長が主題化されてゆく。個々の論点はよく整理されていてさすがだが、そのぶん、後半のまとまりが弱い気も。準備が入念だっただけに、最後はやや物足りなさが残った。「文学」の各論から「近代」の総論へ戻って締めくくってほしかった。2013/04/26
ki_se_ki
3
第五章「固有名という装置」を興味深く読んだ。/田山花袋『蒲団』を今一度読もうと思った。/そして、言語学者ソシュールの言葉。「一枚の紙の表を、裏を切り抜かずに切り抜くことは出来ない」と同時に、その「表と裏は永遠に出会わない」。この言葉、美しいなぁ。2013/03/26