内容説明
かつて私は、しばしば音楽にたすけられました。いまは雨にたすけられています。私たちは一緒に暮らし始めて二年三カ月になる。はじめて雨に会った日のことは、忘れられない。凍えそうに寒い、十二月の、雨の日だった。そのすこし前から、私はまるで幽霊みたいに日々を暮らしていて、その日もまるで幽霊みたいに、雨だというのにデパートの屋上に煙草をすいにのぼった。なにしろ幽霊なので、雨に濡れても平気だった。なにがどうなってもいいのだった。その屋上に、雨がいた。
著者等紹介
江国香織[エクニカオリ]
1964年東京生まれ。作家。透明感あふれる端正な文章、つよさと繊細な心細さを併せ持つ独特の魅力で、今もっとも若い女性に支持されている作家である。『こうばしい日々』(あかね書房)で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』(新潮社)で紫式部文学賞、『ぼくの小鳥ちゃん』(あかね書房)で路傍の石文学賞、『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(ホーム社/集英社)で山本周五郎賞、『号泣する準備はできていた』(新潮社)で直木賞を受賞
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