出版社内容情報
自由で安全な暮らしのために「ただしい」言葉で彼ら彼女らの声を摘み取り、追いやる現代社会の問題を、根底から問い直す30篇。
内容説明
多様性の名のもとに排除し、自由、平等を謳って差別する美しい社会の闇の底へ―ことばを奪われた人びとの声なき叫びを記す30篇。社会を引き裂く事件の背後に何があるのか。ただしさと承認をめぐる闘争が日常と化したSNS時代に宿る“狂気”を解き明かす。
目次
序章 「私はごく普通の白人男性で、現在28歳だ」
第1章 ただしい世界
第2章 差別と生きる私たち
第3章 自由と道徳の神話
第4章 平等なき社会
第5章 不可視化された献身
終章 物語の否定
著者等紹介
御田寺圭[ミタテラケイ]
文筆家・ラジオパーソナリティー。会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義で広範な社会問題についての言論活動を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
80
地獄への道は善意で舗装されていると言うが、現代社会はどんどん綺麗に優しくなっていく。誰もが他人やマイノリティに気をかけている。本書はそんな現代社会が持つ優しい手から取りこぼされた者についての評論。ここではキャンセルカルチャーや排除アート、ルッキズムに親ガチャ等のキーワードを元に取りこぼされた弱者と我々がそれに向ける視線が主なテーマかな、今回は。現代社会の優しさが政治的に正しい弱者に向けられたものであって、その規範から外れた正しくない弱者にとっては極めて過酷な社会であるなあ、本書や数々のニュースを見ると。2022/08/03
tamami
64
人によっては本書を悪魔の書と言うかも知れない。それほど衝撃的な内容だった。多くの論点の中から印象に残ったものを幾つか。原理主義的な宗教等、「前提を共有しない者たち」との戦いについて。果てしない格差を生み出す平穏な社会に一矢を報いることの是非。少子化対策が喫緊の課題となる中で、強権政治によって出生率を上げたハンガリーの事例。人権感覚に傾斜配分を付けるリベラリズムの支持者たち。あらゆる差別の存在しない社会が実現しても尚、「能力による序列化」は存在し続ける。個のあり方だけではなく、私と社会のあり方が問題なのだ。2022/11/12
ふみあき
60
どちらかと言えば保守的な人間である私には、著者の反ポリコレ、反フェミニズム的主張に特に異論はない。積極的に賛同できる部分も多い。なのに、どこか違和感を覚えるとすれば、その芸風か。初期の頃の小谷野敦からユーモアを差し引いて陰鬱さを加え、よりラディカルにしたような、といったら間違いか? 能力主義+資本主義+人権思想が駆動させる格差社会が問題だというのは分かるが、著者は古き良き共同体を復活させたいのか? いわゆる「子ども部屋おじさん」を「英雄的犠牲」と表現してしまうところも、大仰すぎて逆にディスってるようだし。2022/08/14
Toshi53162606
40
近代以降の「個人主義・自由主義・資本主義」という物語がもたらす啓蒙の光が取りこぼしてきた大きな闇にスポットライトを当てた内容。 ウエルベックの著作や橘玲さんの著書が好みの方は特に面白く読めると思う。 この本を読んで、「時代錯誤で差別的だ」と感じるのであれば、その者はある意味おめでたい人間なのだろうなと思う。 近頃ネットワーク科学の進展によって、経済的な格差を始めとするあらゆる格差は実際のところ、より大きな「つながり格差」に端を発している事が明らかになっている。 →2022/06/11
ロア
31
『あらゆる差別を撤廃するべく日々邁進する先進社会でも、最後まで「能力による差別」は肯定される。能力主義はあらゆる差別が駆逐されてもなお生き残る、いわば差別の王である』結局のところ、表層的な問題だけに目を向けて分かったような振りを決め込み自分で考えることを放棄した聞き分けの良い善良な人々は、砂に頭を突っ込んだダチョウと同じだ。苦しくても孤独でも、砂混じりの向かい風に毅然と顔を向けろ。たとえ立ち尽くしたまま絶命したとしても。2023/04/02