内容説明
「市民はみな、プノンペンを出よ」―1975年4月17日、首都に突如現れたカラスのような黒ずくめの兵士たち。資産家ソコンは身の危険を感じ、一人娘のミアルダイに同居する青年ボライと夫婦を装うよう命じる…。飢餓と殺戮、強制労働の極限状況の中で、ミアルダイ、ボライ、ソコンの人生の歯車も大きく狂わされていく…。国民の三人に一人の命が奪われたポル・ポト政権時代。奇跡的に生き延びた著者が、自らの体験を重ね、政治に翻弄される人々の悲劇を描く。行方不明の両親に、自身の無事を知らせるべく発表した話題の長編。
著者等紹介
ヴァンナリーレアク,パル[ヴァンナリーレアク,パル][Vannarirak,Pal]
1954年、カンボジアのコンポン・チナン州生れ。ポル・ポト政権下(1975~79年)で両親を亡くし、集団強制結婚させられる。同政権崩壊後、区役所に勤務しながら小説を書き始める。88年発表の『カンボジア 花のゆくえ』は文学コンクールで第一位入賞、デビュー作となる。95年、長編『忘れ得ず』でシハヌーク国王文学賞受賞。現在、シナリオ・ライター、作詞家としても活躍。女性や青少年の社会問題を扱うNGOに協力し、啓発ビデオ制作にも力を入れている
岡田知子[オカダトモコ]
1966年神戸市生まれ。聖心女子大学卒。埼玉大学大学院文化科学研究科修了。東京外国語大学地域文化研究科博士後期課程中退。現在、東京外国語大学助教授
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感想・レビュー
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mt
31
生真面目な文章でポル・ポト時代前後の暗黒なカンボジアが語られる。最後は主人公ボライとミアルダイが遠回りしながらも結ばれるのだが、自由な表現ができない中、精一杯の恋愛小説を書いたのだろうと思う。主人公ボライがミアルダイの頬にキスをする場面でさえドキドキするほど、全体を通して控えめな描写なのだ。そして、まっすぐな純真無垢な語り口は、何故か中勘助の「銀の匙」を連想させた。日本ではとても流行らないと思える真面目すぎる内容だが、行方不明の両親に著者が生きていることを伝えるために書くこと自体、日本では考えられない。2016/06/29
の
1
クメール共和国~ポル・ポト政権~ヘン・サムリン政権下のカンボジアで、わがままに暮らしていた主人公が啓蒙していく話。現代カンボジア王国の複雑な政治事情が背景にあるにも関わらず、当時の若者の生活を前面に描くことで物語に普遍的人間性を取り入れ、泥沼の戦争から少し離れ、人間の自由さが強調されている。後半の共産主義・恐怖政治への回顧はイマイチ理解できなかったが、それでも「カンボジア文学」の形を提唱できたのは大きいのではないだろうか。2011/04/08
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