出版社内容情報
直木賞候補の感動作が待望の文庫化! 戦中の東京、雑誌作りに夢と情熱を抱いて――巻末に書き下ろしスピンオフ短編を収録!
内容説明
老人施設でまどろむ佐倉波津子に小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった―戦中という困難な時代に情熱を胸に歩む人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描ききった感動傑作。巻末に書き下ろし番外編を収録。第158回直木賞候補作。
著者等紹介
伊吹有喜[イブキユキ]
1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。本作『彼方の友へ』は第158回直木三十五賞、第39回吉川英治文学新人賞候補に選ばれ、書店員有志による『乙女の友大賞』を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
173
『昭和の時代ははるか遠く、気が付けばここに一人でいる』。『卒寿』を迎え、『老人施設』でひとり余生を送る主人公の波津子。この作品には、そんな波津子が戦前・戦中・戦後を『乙女の友』編集部で必死に生きる姿が活き活きとした筆致の中に描かれていました。自由が次々に奪われていく戦中のあまりにも息苦しい描写に息を飲むこの作品。戦前・戦中における雑誌編集者の”お仕事小説”でもあるこの作品。厳しい言論統制が敷かれる中にあって、それでも『彼方の友』である読者に本を届けようとする編集者たちの熱い思いを見る素晴らしい作品でした。2024/05/22
SJW
129
直木賞候補作品。老人介護施設でまどろむ佐倉波津子に昭和13年の少女雑誌「乙女の友」の付録の綺麗な小箱が届けられた。波津子が昭和12年から戦後まで関わった雑誌編集の仕事や仕事仲間を回想する長編感動作品。実際に川端康成等が執筆した「少女の友」に伊吹さんが発想を得た作品。戦時中での雑誌の編集や出版の様子、物がない時代での優雅な絵や文章への憧れ、東京大空襲の悲惨さなど読みごたえがある内容に充たされた。エンディングで波津子の憧れだった有賀の遺品との再会に涙なしでは読めなかった。2021/08/15
かしこ
118
単行本を図書館で借りて、以前読了しております。ただ母が文庫本を購入したので、再読。番外編がついているなんて、この本に出てくる雑誌みたい。戦争、社会人、憧れ、恋、仕事への厳しさ、などなどハツ子の成長と時局、編集部が上手く絡み合ってく。元々、伊吹さんは人についての描写が好きだったけど、さらにハマる感じ。この時代の今とは違った煌びやかがある雑誌も素敵だなあ。あとは少女漫画の王子のような有賀主筆。ハツ子の会社人としての成長と憧れへの胸中を自分に重ねてしまいました。番外編の空井夫妻もこれまた泣ける…2021/01/14
いこ
112
大感動した。生涯大切にしたい本に出会えた。物語は、90歳を超え一人老人施設に暮らす主人公ハツに、思い出の小箱が届く所から始まる。「どなたが来て下さったの?」ハツの回想が始まる。少女の頃、物知らずで入った出版社、周りの個性豊かな人々、戦争に取られてゆく仲間達…。「泣いてはいけませぬ」の意味のヒヤシンスのカードを胸に、ハツは徐々に才能を開花させてゆく。これは、読者の少女達を「友」と呼び「友へ最上のものを」を掲げる少女雑誌と、その一時期を担った少女の成長物語。小箱の送り主がわかる最終章に、涙が止まらなくなった。2022/10/09
となりのトウシロウ
91
実業之日本社が発行していた雑誌「少女の友」をモチーフにした作品。主人公の佐倉ハツが十代の戦前から戦中に、少女向け雑誌「乙女の友」の編集部を舞台に成長していく様が描かれている。大好きだった「乙女の友」の編集部の給仕係として働くことになり、最初は戸惑い、女であり学のない自分に気後れしていたが、やがて編集の仕事に目覚めていく。戦時中の統制圧力、空襲の恐ろしさ、悲惨さ、それでも明日に希望が持てる雑誌を作ろうする姿やそれを求める書店の姿が感動を生む。ラストの五線譜の符牒に感極まる。笑いと涙の感動作です。2023/11/03