出版社内容情報
アイヌの木彫り作家と孫娘の家に男が訪ねてきた。穏やかな日常と消せない過去。殺人、逃走、誘拐…。一気読みネイチャーサスペンス。
内容説明
北海道東部に位置する屈斜路湖。アイヌの木彫り作家・平野敬蔵と中学3年の孫娘・悠の家に、尾崎雅比古と名乗る若い男が訪ねてきた。「弟子にしてください」と懇願。初めは煙たがられていたが、敬蔵から木彫りを教わり、山に入るようになる。しかし、雅比古には誰にも明かせない過去があった。ある日、事件が起こる―。自然を尊んで生きる敬蔵、アイヌから逃げ出したい悠、自らの原点を探す雅比古。故郷とは、家族とは、今を生きることとは…。さまざまな葛藤を抱える現代人に贈る、感動のヒューマンドラマ!
著者等紹介
馳星周[ハセセイシュウ]
1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。編集者、フリーライターを経て、96年『不夜城』で小説家デビュー。97年同作品で第18回吉川英治文学新人賞、98年『鎮魂歌 不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。近年はノワール小説だけに留まらず、さまざまなジャンルの作品を執筆、高い評価を得る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
228
馳星周は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。馳星周なので、単純にアイヌの話ではないなと思っていたら、広義の震災小説でした。帯に書かれた号泣程ではありませんでしたが、後半不覚にも少し涙ぐんでしまいました。著者にしては、ヴァイオレンスの要素がかなり少ないので、暴力シーンから馳星周を敬遠していた人にもオススメです。2017/09/21
Die-Go
163
図書館本。アイヌの血を否定したい少女と、アイヌの血に誇りを持つ祖父、そしてアイヌの血にルーツを見出だした謎の青年の3人が織り成す物語。アイヌにとって、神(カムイ)を崇めるとはどういうことかが物語の端々から伝わってくる。東電の原発のことを絡めるているのも見事。読み易く、楽しい読書だった。★★★★☆2019/03/04
おしゃべりメガネ
159
作品の大半がセックス&バイオレンスのイメージな馳先生ですが、本作は別人かと思えてしまうほどピュアな作風でした。やはり書ける人はなんでも書けてしまうんですね〜。今作の舞台は北海道は道東の川湯で、アイヌをテーマにヒューマニティあふれるお話でした。読後感がこれ以上なく、スッキリ爽やかな馳先生作品も珍しいですね。アイヌの伝統、木彫り、生きざまなどが描かれ北海道のインパクトが絶大な作品です。特に道東界隈が長かった自分にとっては風景などがイメージでき、読んでいてまるで映画をみているかのような素晴らしい作品でした。2017/10/07
いつでも母さん
135
北海道に、アイヌの血を持つ自分のルーツを捜しに来ただけじゃなかったんだ。東北の震災がもたらした不幸=東電の責任のけじめは今も曖昧なままで、雅比古と仲間のしたことは勿論許される訳も無い。その事件を絡めずとも絶対的な自然と共存するアイヌ・敬蔵が良い。その孫・悠の気持ちも切ない位にわかるのが辛い。『先住民がいたんだよ。ここには!』痛いほど伝わる。その矜持は今の私の求めるものだ。『その日生きていくのに必要なもの以外は手にしない。ただただ一日一日を精一杯生きていくのだ』自分の生きる場所を見つけた者は強い。2017/09/14
とん大西
125
…この読後感、なんと言ったらいいのでしょう。静かに静かに沁みいってくるようで…。アイヌに身を投じようとした青年、アイヌを切り離したかった少女、アイヌの誇りを持ち続ける老人。三者三様、思いは違えどやがて心は…。山が森が湖が-神が人間に与えた原始の自然が彼らの心に静かに静かにしみわたる。哀しみはある。葛藤もある。だからこそその先にある幸せ。生きることの喜びをわかちあえる幸せ。あぁ、やはり沁みてくる。不覚にも最後はウルッときたょ…。2019/03/03