内容説明
対話編の傑作「天国から締め出されたユリウス」。併載「悪魔払い、あるいは幻影」。生前、政略と奢侈に明け暮れた法王ユリウス二世は、死んで天国の門まで辿り着いたが、門番ペテロに詰問され、とうとう天国に入れてもらえなかった…。欺瞞と狂信の横行した時代に真のキリスト教を擁護しようとしたユマニストの精神。訳者による周到な解説を付す。
目次
天国から締め出されたユリウス
悪魔祓い、あるいは幻影
著者等紹介
木ノ脇悦郎[キノワキエツロウ]
1942年、鹿児島県名瀬市(現奄美市)に生まれる。1968年、関西学院大学大学院神学研究科修士課程修了(神学修士)。1980‐81年、カナダ・トロント大学、宗教改革ルネサンス研究所客員研究員。1992年、関西学院大学よりエラスムス研究により博士学位受領(神学博士)。2001‐02年、アムステルダム・フライ大学、中世末期宗教改革研究所客員研究員。福岡女学院短期大学教授、関西学院大学神学部教授を経て、福岡女学院院長、福岡女学院大学学長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いとう・しんご singoito2
4
読友さんのレヴュで借りてきました。実はこの時代の歴史の基礎資料、F.グイッチャルディーニ「イタリア史」の邦訳が太陽出版から出ていて、2回読んだけど、登場人物が多いし、合従連衡が激しくて関係が複雑なうえに、作者の筆致がやたら細かくて、良く分らない(ユリウス2世、ガストン・ドゥ・フォア、ベンティボーリョ、ボローニャの戦いについては4巻、5巻に出てきます)。そういう時代の動静をエラスムスは良く掴んでいて、冷静に批判しています、いったいどうやって情報収集をしたんだろう・・・。訳者の解説は冗漫で神学に偏りすぎ。2022/03/11
belier
2
戦争好きの政治屋法王と言われたユリウス2世を揶揄する対話劇。エラスムス本人は自分の作品ではないと否定するが、翻訳者はエラスムス作品だろうという。初代法王とされる「天の国の鍵」を持つペテロとユリウス2世が対話する。キリストと16世紀の異端審問官の対話(というか独白)がなされるカラマーゾフの兄弟の作中内作品「大審問官」を彷彿とさせる。どちらの作品も堕ちた聖職者に自己都合のいい現世的な理屈を見事に語らせるからだ。ただし、こちらは風刺として軽いタッチで、教会よキリスト教の本来の姿に戻れと諭す内容。悲観的ではない。2017/08/14
Atsushi Sakamoto
0
天国から締め出されたユリウスのパロディです。英語とラテン語の対訳でしか読んでませんが、木ノ脇先生の翻訳で読んでみたいです。
Sin'iti Yamaguti
0
エラスムスといえば『痴愚神礼讃』、そして風刺作家というイメージが強いのだが、そして本作も風刺の趣をたたえてはいるのだが、エラスムスはあくまでもカトリック信徒として、その教説に忠実たらんとした人である。カトリックの保守派からもルターからも距離をおく、真面目な思想家である。 本書では『天国から締め出されたユリウス』「悪魔払い、あるいは幻影』の二作を収録。前者は特に、歴史に詳しくないと完全な理解はむずかしい(そのため訳注が詳細をきわめる)が、背景の史実を知らなくとも十分に楽しめる。そして考えさせられる。2023/04/06