内容説明
大学の哲学教師アダム・クルグは最愛の妻オリガを失った。彼のもとには八歳の息子ダヴィットがのこされる。国家は均等主義を旗じるしに総統バドゥクに支配されていた。すべての知の均等配分の名目で、大学もまた危機的な状況に置かれていた。大学当局は、クルグが総統パドゥクと少年時代同じ学校ですごしたことを盾に、この状況を打開しようともくろむ…。独裁政治のもと、その運命をもてあそばれる一人の知識人の生を描いた本書は、ありきたりの寓話小説ではない。カフカ、ジョイスと並び、二十世紀後半の世界文学をリードしたナボコフが、アメリカ亡命後初めて書いた本書は、難解な言語実験と政治的寓意を含みながら、それでも愛について書かれた美しいファンタシーなのだ。