感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chikara
74
何年振りの再読だろう。何故、雅人は星宿海へと旅立ったのだろうか。自分の原点、母なる場所を目指して。近づけば近づく程に子供に、物乞いをしていた幸せな時期の幼児に戻っていったのだろう。セツが千春の元で生き直すように、母と生き直す為に旅立ったのだろうか。2016/06/02
esop
69
決して美人とはいえないまでも整った小造りの地味な顔立ちの奥に誠実なものを漂わせ始めました/旅をする人にとってはそこに美しい風景があるということは第一の条件であるはずだった/せつのお父ちゃんは、腕のええスナイパーやなぁ2024/05/01
i-miya
61
(宮本輝) 1947、兵庫県生まれ。『泥の河』で太宰治賞。(背表紙裏書) タクラマカン砂漠付近の村で自転車で消息を絶った兄。残された千春とせつ。血のつながらない弟・紀代志が足跡を辿る。戦後→現代。(解説=吉田和明=文芸評論家) いつもはひたかくしにしていたものが宮本の小説で露出。涙。共鳴しだす。「抒情」リアリズムの裏づけ。昭和30年頃の「その時代」 ブリキやゼンマイ仕掛けのおもちゃのセールスマン。H09、50歳、中国旅行。真喜子、雅の幼馴染たち。2010/12/13
るい
45
宮本さんの描く関西弁はなんだかとても優しい緩さで、哀しく暖かく沁みてくる心地よさに浸れる。 登場人物の表情や背景が瞼の裏に映るような物語は心の深くに入ってきてその世界に自分もいるようでずっと読んでいたい気持ちになる。追い求める幻想と厳しい現実との開きに落胆しながらも高度成長の裏側で貧しさに負けず生き抜く気概に心が動く。ラストはあっけなかったけれどそれがなんだかリアルで余韻が残る。 2021/08/15
エドワード
35
発端は中国奥地での日本人旅行客の失踪だった。彼・瀬戸雅人は、黄河の源流とされる星宿海に異常に興味を抱いていた。彼の弟の紀代志が、平成九年から昭和三十年へ、二十四年へと時を遡り、明らかになる雅人の哀しい前半生。ミステリー小説の常道をふみながら、ミステリーを主題としない物語。星宿海とは、星のような湖群と、海のような星空のダブルミーニングだ。しまなみ海道に建てられる、雅人の恋人千春が彼の娘せつとともに育む夢の旅館の名が星宿。雅人を養子にした紀代志の両親の姓が瀬戸…。この縁の不思議さが真の主題ではなかろうか。2015/09/14