内容説明
時空や他己の隔たりを超えて紡がれる、懐古と眩惑に彩られた幻想譚6篇を収録。
著者等紹介
大濱普美子[オオハマフミコ]
1958年、東京生まれ。1980年、慶応義塾大学文学部文学科フランス文学専攻卒。1987年、パリ第七大学“外国語としてのフランス語”修士課程修了。1995年よりドイツ在住。2009年、「猫の木のある庭」を発表(三田文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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読書という航海の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
115
五感をくすぐるような巧みな描写、緩やかで悠然実直な語りの中にどこかフワリと朗らかさも感じさせる文体に惹かれた奇譚集。日々を過ごす中で避けられない老いと死の別れは恐れと喪失感を呼び込む。それでもこれらの物語はそれらと無垢に向き合う気持ちをもたらしていたように感じられた。ふと目にする何気ない薄暗い場。陽の光が遮られることで生じる深い影の先にはこの世とは違う場の存在があるのかも。そんな気持ちに囚われながら、それでもその日常を日常とする。物語が見せる別れの儀式は慈しみに満ち、その者の現実の孤独に寄り添っていた。2022/12/24
ちゃちゃ
102
生と死の境が溶け合って仄暗く茫漠とした“あわいの世界”に迷い込んだような感覚。特に最初の三編は、ひやりと冷たい感触が残る妖しい魅力を放つ幻想譚だ。/音を吸い取るという貝のイメージに重ね、老女から真偽不明の話を聴く傾聴ボランティアの話「ツメタガイの記憶」。今は亡き人の姿を呼び込むような儚い生を映し出して銀色に光る深淵「鼎ケ淵」。混濁した老いの記憶の中に鮮明に浮かび上がる悲哀と恐怖と自責の念「陽だまりの果て」。現実のどこかに異世界への通路が隠されているのかもしれないと、ふと足もとの地面が揺らぐような読後感。2023/02/12
みも
79
第50回泉鏡花文学賞受賞作。授賞式当日、限定配布にて頂戴した著者サイン本です。サインと言うより生真面目なまでのその訥々とした楷書体の筆遣いは、著者の受賞の挨拶と相まってその謙虚な姿勢が浮かび上がり、抱きしめたくなるような1冊です。さて、その技法は「章」も「節」も敢えて省き、その境界を曖昧に霞ませたまま読者を夢幻の世界へといざなう。タイトルは6編の中の表題作に由来するが、6編全てを一括りにした1冊が受賞対象と捉えるべきであろう。静謐ゆえの取っつき難さはあるが、そこに滲む生と死が忘れ難き刻印を読者の心に刻む。2023/09/25
HANA
65
読む前はもっと幻想的な短編集かと予想していたのだが、案に反して現実的な話が多かった。各話ともボランティアと老女だとか、中年女性と老女だとか、飼い主と飼い犬だとか、極めて限られた世界が中心。ただその世界は静謐で読んでいくと心のどこかに引っ掛れたような傷跡を残すよう。その傷は普段は意識しなくても心のどこかに残り、ふとした瞬間に思い出し血を流すよう。文学の効用ってこういう事かな。極めて効いたのは飼い主と犬の関係を描いた「バイオ・ロボ犬」。ありきたりなようだけど、犬と人との別れは個人的な体験もあってホント駄目。2022/10/11
カフカ
62
六篇からなる短篇集。幻想やSF、認知症の人が見る世界を描いた作品などバラエティに富んでいます。 全てに共通するのは美しさと静謐さ、そして物悲しさでしょうか。 中でも幻想的な「ツタメガイの記憶」と「鼎ヶ淵」の二篇が特にお気に入りです。2022/08/19