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内容説明
人間の創造とそれに伴う危険。最初に聖書の「創世記」が引用され、次に中世のユダヤ人ラビ「聖職者」が王に頼まれて泥からゴーレムをつくる物語、最後に現代社会で無機物から生命体の創造に成功した科学者の数奇な運命が語られる。物語の背後にカフカの存在がほのめかされ、読者をもうひとつの物語へといざなう幻想的長篇。
著者等紹介
ムリシュ,ハリー[ムリシュ,ハリー][Mulisch,Harry Kurt Victor]
1927年7月29日、ハーレム生まれ。デビュー作Archibald Strohalm(アーヒバルト・ストローハルム)でライナ・プリンセン・ヘールリフス賞を受賞。オランダでもっとも偉大な作家の一人で、十三冊の小説の他、詩集や戯曲等、多数の著作がある。1977年には全著作にP.C.ホーフト賞が送られ、『過程』では1999年にリプリス文学賞を受賞。以後も社会の動向に注目し、精力的にメディアに登場
長山さき[ナガヤマサキ]
1963年1月6日、神戸生まれ。関西学院大学大学院部区文学部修士課程修了。文化人類学を学ぶ。1987年、オランダ政府奨学生としてライデン大学に留学。以後、オランダに暮らす(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紅はこべ
102
アンネ・フランクは別として初めてのオランダの作家。そういえば日本はオランダとの付き合いは長いのに、オランダ文学の紹介はさっぱりだな。オランダの代表的作家も知らないし。でもこの作家は日本をそこそこ知っている。谷崎の『鍵』も知っているし、日本人がユダヤ人のことに暗いことも知っている。解説がなければ、カフカとの関連は読み取れなかった。ルドルフ2世が出てくる話はペルッツを連想。息子ではなく、娘による父殺し、神殺しの話か。男女問題の討論もあるし。2019/08/30
藤月はな(灯れ松明の火)
78
「不条理なもんは皆、カフカだ」(『虐殺器官』のウィリアム)の言葉を思い起こさせるようなカフカが見え隠れする生命創造と故に必ず、まとわりつく「死」についての幻想小説。主要登場人物の紹介で顔に火傷を負った女はモナリザのよう。ゴーレム創生の登場人物が旧約聖書での神の意を示す者の名がついているのが意味深。そして無機物からの生命の創生でも共通する妊娠、出産の過程は笑える所、泣ける所もあるのにカフカが大きく、絡んでくる最終パートでの不条理に流されるというとんでもない結果に。ラストはカフカの「城」をモチーフにしたの?2015/11/12
syaori
51
まず語られるのは生命の創造。神によるアダムの、16世紀プラハのラビとその娘婿によるゴーレムの、そして20世紀オランダのフェルディナンドとその妻による息子ヴィクトルの。こうして始まるヴィクトルの物語は、それまでのエピソードが反転し映り込み、鏡の迷路を歩いているよう。出産に立ち会う夫と逃げ出す男、生まれる男児と生れない女児、消える三つ子と見出される三人。気づけばオランダはプラハに変容し、開かれた〈法廷〉でヴィクトルは告発される。そのあっけない結末と彼が至る、目くるめく光の中の「幸福」、恍惚の何と恐ろしいこと。2019/02/22
三柴ゆよし
15
全体の印象としてはカフカというよりボルヘスやカルヴィーノに近いものを感じた。『創世記』の記述からユダヤラビのゴーレム秘儀、さらには20世紀のDNA科学にまで至る、生命の創造をめぐる奇妙な符合に満ちた物語が、最終章においてはカフカ『審判』への参照を以て、俄かに不条理な悲喜劇の様相を呈してくる。些細な符合に意味を見出す行為は狂人のそれに限りなく近いといえるが、結局のところ、符合と引用によってしか世界を理解することはできないのだ。参加型の小説なので人を選ぶが、歯応えある読書を求めている人には絶対オススメだ。2010/11/17
きゅー
14
前半と後半で勢いが異なり、驚くほど「溜め」の上手な作家だと思わされた。中世のゴーレム作成物語と現代の生命と無生命をつなぐ物質の発見物語が直接的には絡み合わず、微かな振動が時を超えて伝わってくる。この辺りの、分かりにくさと曖昧さが心憎い演出とも言える。冒頭100ページは特に難解で、最後まで読み終えるか心配だったが、次第に物語の主軸は明快に読みやすくなる。その陰で、選ばれた読者は曖昧な象徴の中に間テクスト性を楽しむ。読書の質によって何層にも分かれた楽しみ方が出来る物語。読み応えのある一冊だった。2013/06/19