内容説明
孤独な中年女性の日常への美しくも不気味な侵入者をえがいて、江戸川乱歩が奇妙な味の傑作と絶賛した「銀の仮面」、大嫌いな男に親友気取りでつきまとわれた男―奇妙な関係がむかえる奇妙な顛末「敵」、大都会の暗闇にひそみ、異国からきた青年を脅かす獣の恐怖を克明に綴ってモダン・ホラー的味わいの「虎」、ゴースト・ストーリーの古典的名作「雪」「ちいさな幽霊」他、ニューロティックな犯罪小説から超自然の怪談まで、絶妙な筆致で不安と恐怖の物語を織り上げる名匠ヒュー・ウォルポールの、高度な文学的達成を示す本邦初の傑作集。
著者等紹介
ウォルポール,ヒュー・シーモア[ウォルポール,ヒューシーモア][Walpole,Hugh Seymour]
1884‐1941.イギリスの作家・批評家。ニュージーランドのオークランドで牧師の家に生まれる。故国イギリスに戻り、寄宿学校からケンブリッジへ進学。学校生活にはなじめなかったが、ディケンズやスコットの小説に慰めを見出す。さまざまな職についたあと文筆生活に入り、第3作『ペリン氏とトレイル氏』(1910)で批評家の注目を集めた。文学研究や評伝、戯曲など多方面に活躍した才人である
倉阪鬼一郎[クラサカキイチロウ]
1960年、三重県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。作家、翻訳家、俳人
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感想・レビュー
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ペグ
72
ウォルポールの「銀の仮面」を読んだ時の動揺は映像と共に忘れられない。(作品はとても映像的)彼の作品はしなやかで色彩的、沈黙の中で揺れ動く心の襞。善意を利用する悪意を描いた「銀の仮面」は大傑作。その他「敵」「虎」も好きだった。再読決定。2018/05/22
藤月はな(灯れ松明の火)
39
ある意味で傲慢で迂闊な老婦人が美しいが手癖の悪い美男子に丸め込まれ、次第に立場を失っていく表題作や無力になった老婆と家族の本音が毒々しい『トーランド家の長老』はニヤッとしてしまいます。そして心底、嫌っている相手に付き纏われ、親友面をされる『敵』は、途中で逢っただけなのについて来られて流石に不快になって途中で撒いたのに図書館の中にまで付き纏われるなどの経験を思い出し、心底、付き纏って依存する輩への軽蔑が抑えられません。『虎』は最後の一文の不穏さに冷や汗が流れます。『みずうみ』の境目が分からなさも怖いです。2013/10/06
星落秋風五丈原
36
独な中年女性ソニア・ヘリスの日常への美しくも不気味な侵入者ヘンリーを描いて江戸川乱歩が奇妙な味の傑作と絶賛した表題作(The Silver Maskこれはヴィスコンティだな)、理由ははっきりと言えないけれど大嫌いな男トンクスに親友気取りでつきまとわれる男ハーディング。でもある日彼の姿が消えてしまう。さてその時彼は?「敵The Enemy」。ちょっとユーモラスな味付けの「Chinese Horses中国の馬」2001/11/17
本木英朗
31
英国のゴシック作家のひとりであるヒュー・ウォルポールについては俺はこの作品で2001年に一度だけ読んだ。というわけで今回が2回目である。孤独な中年女性の日常への美しくも不気味な侵入者を描いて、江戸川乱歩が〈奇妙な味〉の傑作と絶賛した「銀の仮面」をはじめ全11編を収録。いやー、これはよかったよねえ、うん。みんなすごいけれど、俺は「トーランド家の長老」「みずうみ」がよかったかなあ。まあ、全部だけれども。またいつか読みたいねえ。ちなみに創元推理文庫版では2019年に出ていて、そっちはさらに1編あるのよねえ。2020/03/09
くさてる
24
既読の表題作がどんなに厭な後味の話か覚えていたはずなのに、うっかり手に取ってしまったのが運の尽き。どうしてこうも人の悪意やすれ違い、嫌な気分になるしかないお話ばかりが揃っていて、そしてわたしは読むのを止められないのか?そのなかでも、嫌さよりせつなさが勝った「ちいさな幽霊」が良かったです。2019/03/23