出版社内容情報
誰もがいずれ感じる80代の心の内を、記憶も曖昧な老いた本人の視点から描く。『平場の月』から2年余り、待望の新作がついに刊行。
内容説明
北海道で独り暮らしをするおもちさん、83歳。夫は施設に入り、娘は東京から日に二度電話をくれる。実は持病が悪化して、家族がおもちさんの生活のすべてを決めていくことに。不安と苛立ちと寂しさと、懐かしさと後悔とほんのちょっとの幸せと、揺れては消える老境の心情が、静かに切々と迫ってくる。ベストセラー『平場の月』の著者が、ひとりの老女の内面に寄り添う、新たな代表作。
著者等紹介
朝倉かすみ[アサクラカスミ]
1960年北海道生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞、2004年「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。2009年『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞。2017年『満潮』が山本周五郎賞の候補に。2019年『平場の月』で山本周五郎賞受賞、直木賞候補、北海道ゆかりの本大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
235
落日とはちょっと切ない。83歳明るく元気なおもちさんは、老いてもますますだったが身体は正直。連れ合いを特養に入所させてから、自分の身体の時おり感じる不調をスルーしている日々だったが…これはもうビシバシ響く。私の独居の母はおもちさんより年齢は上だが、あぁ母もこうなのだろうなぁと、グサグサ刺さりながら読んだ。おもちさんの心の声が母の胸中とダブるようで苦しくて切なくて…おもちさんの娘さんや嫁・トモちゃんほど優しくない私でごめんね。いつか私も通る道を朝倉さんが明るくほろ苦く読ませてくれた(娘も嫁もいないけど)2021/06/20
hiace9000
218
倉谷もち子、おもちさんの最晩年を自身の一人称で描く、切なくも温かく、明るくも寂しい"落日"の日々。自分に残された時間を思うことは、歳をとるにつけますます増えるに違いない。だがおもちさんの人柄だろう、そこに悲壮感や重苦しさはない。「いつ死んでもいいけど、今はまだ、やだ」と、おもちさん。ことあるたびに飲み込む悲痛でやるせない思いが、たちまち記憶の靄の向こうに落ちていく、そのもどかしさを飄々と受け止め、それもまた忘れていく。母や祖母の姿を重ねつつ、つまり歳をとるとはこういうことか…と実感を伴い、じわり染み込む。2023/07/05
みっちゃん
161
ぽんぽん飛び出す可笑しみある北海道弁。娘、お嫁さん、ご近所さん、皆優しい。でも、やるせないんだわ。徐々に衰える判断力、記憶力。色々な事が億劫になる。だからといってプライドや自負がなくなったわけじゃないんだ。周りの話についていけない疎外感、言うことをきかない身体の不甲斐なさ、悔しい、悲しい、理不尽さに乱高下する感情。戸惑う周りの視線にまた落ち込む。老いる事は哀しい。けれどだからこそ、懸命に生きて生きて辿り着いたその境地は美しく、尊く、かけがえのないもの。生きとし生けるもの、誰もが「落日」へ、と歩んでゆく。2021/12/02
ウッディ
147
83歳で生まれ育った北海道で独り暮らしをする「おもちさん」。心配してくれる娘や優しい息子の嫁がいて、幸せな老後を噛みしめながらも、持病の悪化や日々の生活が億劫になった彼女の日々を描いた物語。朗らかで、お世辞に素直に喜ぶおもちさんだが、物忘れがひどくなった彼女の頭の中には、昔の楽しい思い出がたっぷり詰まっていて、ひょんなことから零れ落ちてくる様子がユーモラスに描かれている。老いることは寂しいことではあるけれど、良くも悪くもこんな風に色んな出来事にあふれた「にぎやかな落日」を迎えるのは、幸せなのかもしれない。2022/06/23
とん大西
140
「老い」を生きる83歳おもちさん。ご近所さんとのおしゃべりを楽しむ。穏やかにすすむ認知症に少し凹む。ご飯もお菓子も食べれることを喜ぶ。。娘、嫁、施設で暮らす夫に情をよせる。身体の衰えにイラつきをおぼえる。時折、昔日を懐かしみ、淡々と流れる彼女の日常。これをどう読むか。「にぎやかな落日」、このタイトルがどう響くか。ついつい私達は大前提で「老い=憂い」と考えちゃいますが、おもちさんの日々を眺めてると決めつけはダメよねぇと思ったり。でも現実問題として笑えない状況にざわついたり。余韻は決して軽いもんじゃない。2021/06/13