出版社内容情報
窪美澄[クボ ミスミ]
内容説明
女は小さな声で、マリモ、と言った―。家具ショップで働き、妊娠中の妻と何不自由のない生活を送る悠太郎。ある日店に訪れた女性客と二度目に会った時、彼は関係を持ち、その名を知る。妻の出産が迫るほど、現実から逃げるように、マリモとの情事に溺れていくが…。(「雨のなまえ」)答えのない「現代」を生きることの困難と希望。降りそそぐ雨のように心を穿つ五編の短編集。
著者等紹介
窪美澄[クボミスミ]
1965年東京都生まれ。カリタス女子中学高等学校卒業。短大を中退後、広告制作会社勤務を経て、フリーランスの編集ライターに。2009年「ミクマリ」で第8回女による女のためのR‐18文学賞を受賞しデビュー。’11年、受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞。’12年『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
217
窪さんらしいリアルなエロさが漂ってる短編集です。しかし、作品によっては東日本大震災を絡めているので、なかなかシリアスな雰囲気にもなっています。個人的にはやっぱり窪さんは短編集がステキかなと。シングルマザーの苦悩や学校教師のトラウマ、どこか行き場所のない哀しみを抱えた登場人物達が儚いです。こういう作品、読んで決して元気にはなれないかもしれませんが、今自分が置かれている環境の’平凡’さのありがたみを改めて感じるコトができますね。人を大切に、そして何より自分をもっと大切にしなければいけないと思わせてくれます。2018/04/29
じいじ
142
『よるのふくらみ』を読んで、その巧さにやられた窪美澄。本作は5編の短篇集、各々の趣が違って味わい深い良作で面白い。とりわけ、冒頭の表題作がずば抜けて印象に残った。この作品だけ異質の風合いを感じた。妻が妊娠中にもかかわらず浮気する夫、退廃的で醒めた男にイラつきながらも、何故かぐいぐい引き込まれてしまう。この短篇を読んで思った。―「この作家、巧いなぁ!」と。その他、息子と夫の弁当を作りながら、夫でない男との情事を妄想する主婦。年齢の老いを悔いながら葛藤する女…。複雑に揺れ動く女の心情が見事に描かれています。2017/08/23
新地学@児童書病発動中
117
やるせなく、暗い短編ばかりで後味が良いとは言えない。でもこの暗さが窪さんの持ち味だろう。性的な描写が多いのも他の作品と共通するところだ。「記録的短時間大雨情報」に書かれる女性の孤独と心の痛みは、こちらの心の一番柔らかいところに突き刺さってくる。「ゆきひら」が一番好みの短編。男性にとってはぞっとする結末だが。いじめられている自分の好きな女の子を、見捨ててしまった男性教師の苦悩が、リアルに描かれている。最後の「あたたかい雨の降水過程」では、最後でわずかに救いが示されて、ほっとした気持ちになる。2017/07/02
ベイマックス
106
5つの短編集。4つ目の『ゆきひら』は最悪な内容で最悪な結末でした。不快で、最後の話しに読み進む気がしなくなるほどでした。◎『記録的短時間大雨情報』は、バイトの柏木のちくりがムカつく。行き違いや誤解は仕方ない。他人に言うのは最低。男女とも既婚者でもいつまでもかっこよく・美しく、あろうとした方が素敵だと思う。◎生きにくい世の中の愚痴に焦点を当てすぎても辛くなるばかり。2021/06/21
hit4papa
96
雨降りの日のような辛気臭くて湿度の高い短編集です。途中で読むペースが落ちてしまうほど、いたたまれない気分にさせるのは、如何ほどか自分にも共通する部分があるからなのかもしれません。心の底にある欲望が、ふいに発露してしまうような居心地の悪さ。主婦がパート先のバイト学生に想いを寄せる「記録的短時間大雨情報」、自分と不釣り合いな憧れの美女との暮らし「雷放電」、いじめに対しての無力さを痛感する教師「ゆきひら」他、2編です。見たくないものを見てしまった気分。作品の中でも雨が効果的に使われていますね。どよ〜ん。 2018/01/06