内容説明
元近衛竜騎兵のフィリップは、酒や賭博に興じ、勤め先や家族の金を使い込んだ挙げ句、軍の謀議に関与して収監される始末。息子を溺愛する母は、釈放に必要な金を工面しようと実家の兄に援助を求めるが、そこでは美貌の家政婦とその恋人が家長を篭絡して実権を握っていたのだった…。
著者等紹介
バルザック,オノレ・ド[バルザック,オノレド] [Balzac,Honor´e de]
1799‐1850。フランスの小説家。トゥール生まれ。8歳からの6年間、寄宿学校に入れられる。17歳で代訴人の事務所に見習いとして入り、パリ大学法学部に通う。このころから文学者を志し、20歳のころパリ市内の屋根裏部屋に住んで小説を執筆し始める。人間を観察し、その心理を精密に描きつつ、社会全体をも映し出す長短編小説を次々に生み出し、巨大な作品群によってフランス社会そのものを表す「人間喜劇」を形成していく。旺盛な執筆活動の他に、年上の貴婦人たちと数々の浮き名を流したことでも知られる
國分俊宏[コクブトシヒロ]
1967年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。パリ第3大学博士課程修了(文学博士)。青山学院大学国際政治経済学部教授。フランス文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイトKATE
31
悪党というかクズな主人公フィリップ・ブリドーを中心に、狐と狸の化かし合いが展開される。前半のフィリップの転落と悪行三昧ぶりと、フィリップを溺愛して素行の悪さを不運としか見ない母アガトやお人好しの弟ジョゼフがフィリップに振り回される様子は呆れて笑ってしまう。後半、フィリップと同等のワルのマックスとフロールが登場すると、フィリップが一転してヒーローとなって手玉を取っていく所は痛快を感じる。『ラブイユーズ』の登場人物はワルやクズばかりだが、バルザックが書く物語にはユーモア的要素を盛り込んでいるから本当に面白い。2024/11/11
星落秋風五丈原
29
タイトルロールの『ラブイユーズ』は、人名ではなく、「川揉み女」という固有名詞である。えっ、川を揉む?誰ですか怪しい想像した人は。小枝で川の流れを掻き回し、ザリガニを驚かせて、罠を仕掛けている男性のもとに追い込む作業をする女性のことだ。名前はフロール・ブラジエである。そして彼女は全三部中第二部からの登場だ。彼女が登場する前の第一部は、イスーダンのブルジョワ家庭の三代に亘る歴史が語られる。長男フィリップは遅れてきたナポレオン信奉者で士官として仕えたことを鼻にかけナポレオンが倒れた後もろくな職に就こうとしない。2023/08/20
kazi
26
めちゃくちゃ面白かったです!19世紀の小説だけあって、話の入りは回りくどくて少々冗長な感じだが、物語が進み出すと、会話文多めでめっちゃスピード感があります。はっきりエンターテイメント小説として面白い。物語を進めるのは、とにかくこれもう金・金・金!お人好しの金持ち爺さんの遺産をめぐって繰り広げられる悪党たちのバトルが熱い。毒蛇と毒蛇が食い合う壮絶な展開ですが、バルザックの書きっぷりはどこか喜劇的というか、ユーモアがあって明るい感じ。2024/11/02
ROOM 237
15
弟曰く「兄さんがお金を持っていると悪い予感しかしない」ハハハ…笑うしかないこのひと言に尽きる700ページ、長いけど面白い。兄が来たりてカネを吸う…18世紀末、成り上がりを目論む兄のクズっぷりに慄いている所に「時計仕掛けのオレンジ」のアレックスを思わせる切り込み隊長マックス参戦!バルザックオマージュだったら嬉しいなあ。壮大な遺産争い群像劇なんだけど、人の弱みにつけ込んで心情を変えようと奮闘するのってなんとも滑稽。対照的な兄と弟と2人に対する母の愛情格差、シンプルな愛と道義の成れの果てを見届けました。2023/10/05
kaze
15
実にバルザックらしい作品。いつもながら後半は一気読み。(前半は初心で善良な登場人物が出てくるたびに、「この後酷い目に遭うんだろうな〜」と思うのでなかなか進まない。笑)フィリップがイスーダンに乗り込んでくるところから急に面白くなる。エンタメとしての盛り上がりが半端ない。今回は珍しく勧善懲悪っぽい終わり方で、なるほどこの作品が人気あるのも納得。フィリップにしても、どうしようもないクズではあるものの、時代に翻弄された人の1人ではある。社会と人間を描いているところがバルザックなのだよなあ。 2023/08/12