出版社内容情報
既往(過去)、現在、将来(先駆)という独自の概念によって、現存在の存在論的な意味である「時間性」について考察する。
内容説明
通常わたしたちは「今(現在)」の連続を生きていると考えているが、ハイデガーはそうは考えない。この巻では現存在の全体性と本来の可能性について、気遣いや頽落、恐れ、不安などの現象を「将来」「既往」「瞬視」という独自の時間概念に結びつけて考察する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イシカミハサミ
8
小説でいうと伏線回収に入った状態。 いよいよタイトルにもある時間の考え方について。 個人的に最近、言語学の話などで 日本語に未来形はない、とか英語の未来形は後付け、とか 聞いたこともあって、 過去・現在・未来という一直線ではとらえられない気しかしていなかったので、 それが補強されるような読後感。 こうだ、と決めつけるのではなく 書きながらも悩んでいる感じが、 真摯な学者像のようでいい。2021/09/15
tsukamg
2
前巻までに、現存在が日常において普段は頽落しているというあり方を学んでいるが、時間も、頽落中か、確変の本来モードかで、定義が異なるそうだ。現在過去未来と、渡辺真知子「迷い道」の歌詞みたいに流れていく時間は、我々が普段イメージする時間であるが、それは頽落中で、では本来のあり方ではどんなんか? というのが本書で語られる。が、なにせ、固定観念としてある時間のイメージが強すぎて、難しいことこの上なかった。2022/06/30
わたる
1
本巻でのメインは、時間性についての考察だろう。ハイデガーの述べる時間性は、通常私たちが考える「今」の連続という時間と異なる。ハイデガーはこれを通俗的な時間と呼ぶ。ハイデガーは通俗的な時間での、「過去・現在・未来」を「既往・瞬視・将来」と置き換え、さらには通俗的な過去⇨未来の時間の流れではなく、将来⇨既往⇨瞬視という時熟を述べる。現在は、単なる過去から未来へ続く時間への一点ではなく、将来と既往の網の目のような点なのである。 2022/12/02
鴨長石
1
このシリーズは訳者による詳細な解説が素晴らしい。すべての記述をなぞるような解説だが、それでいてしっかり噛み砕かれていて本文よりもすんなりと入ってくる。この巻は今までよりもさらに難解だったが、何とか読み終えることができた。やはり時間性というのは人間が生きる上で大きな概念であり、今のコロナ禍の大混乱の根本的要因であるとも感じる。また、科学の考え方も包摂する記述もあり、本書はやはり現時点では人類の思考の最高峰というように思う。2020/08/21