内容説明
17世紀ニューイングランド、幼子をかき抱いて刑台に立った女の胸に付けられた「A」の文字。子供の父親の名を明かさないヘスター・プリンを、若き教区牧師と謎の医師が見守っていた。各々の罪を抱えた三つの魂が交わるとき、緋文字の秘密が明らかに。アメリカ文学屈指の名作登場。不倫の罪を背負いながらも毅然と生きる女、罪悪感に苛まれ衰弱していく牧師、復讐心に燃えて二人に執着する医師―宗教色に隠れがちだった登場人物たちの心理に、深みと真実味を吹き込んだ新訳。
著者等紹介
ホーソーン[ホーソーン][Hawthorne,Nathaniel]
1804‐1864。マサチューセッツ州セイラム生まれ。清教徒の古い家系に生まれ、先祖はクエーカー教徒への迫害や、「魔女裁判」の判事だったことで知られる。作家を志して1837年、短篇集『トワイストールド・テールズ』を出版。翌々年ボストン税関に就職するが、政変の影響によって失職する。その後、理想主義的な実験村ブルック・ファームに参加するも幻滅して脱退。セイラム税関に就職し、再び政変で解任された翌1850年、『緋文字』を発表して文名をあげた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
114
19世紀のアメリカ人作家による小説。舞台は独立前のニューイングランド地方。植民して間もないピューリタンの風土が色濃い17世紀の社会や通念が描かれているのが興味深い。題名は、不貞の罪を犯した女性ヘスターが常に胸に緋色の文字Aを刺繍した布を付ける懲罰が元だが、そこに込められた意味は謎めいており、色味から魂が焦がれるような強い思いも感じられた。物語では三者が抱える三様の罪の苦悩が交錯する中、自らの罪を曝け出す真実の力の大きさが示される。加えて天真爛漫な娘パールの存在も大きい。彼女の変化の姿も印象的だった。2023/06/02
優希
101
17世紀のニューイングランドにおける「A」の緋文字にまつわる物語。女性が刻む「A」の証しから罪を償うこと、隠して生きることを考えさせられます。罪を背負う女性と罪を隠す牧師が精神に異常をきたすほど思い悩むのが辛いところでした。不倫という裏切りが愛憎劇を生み出し、罪に関わる人々のあり方が変わっていくのは、身を滅ぼす恐ろしさを秘めていると感じます。そこには宗教と失われた信仰があるように見えました。宗教が強い時代に貫通を描いたことはセンセーショナルに思えますが、罪を追求し続けた宗教小説というべき作品でしょう。2015/11/01
ころこ
51
「魔法のようにできあがる不名誉の輪の真ん中に立たされて、そのまま出られなくなることが、この刑罰の残酷な仕掛けになっている」ということから、緋文字はスティグマだと分かる。「A」とは最初はadultery(姦通)で、次にableになる。牧師との交流から宗教的な意味を見出すのが自然だ。しかし現代的な開放の意味を読み取るならば「これまでの7年、この子は生きた象形文字として世間の目にふれていた」という一節から、緋文字とはいつの間にか娘パールのことであり、娘の巣立ちから母も緋文字から解放されると解釈することができる。2023/10/25
aika
42
アメリカ文学の古典的金字塔として名高い作品ですが、新大陸の刑台の上でも背負わされた緋文字「A」の宿命に怯まず、娘パールと生き続けるへスターの気高さと精神の強靱さに胸を打たれました。若くして聡明で尊敬を集めるディムズデール牧師が精神を蝕まれ、その傍らに居座る謎の老医師チリングワースの存在が、この物語に流れる不穏な空気をより濃いものにします。掴みどころのない、天真爛漫さとは裏腹の恐ろしさも見え隠れする幼いパールが、宿命の3人を繋ぐ結び目のように思えました。ピューリタンとして生きた人々の思考を追体験できます。2021/06/09
フリウリ
41
本書はアメリカ人にとっては、学校で読まされる課題図書というイメージ、と訳者が冒頭述べています。物語としては、最後に聖職者が自分の悪を告白して命が絶える、というもので、まあまあ…といったところだと思うのですが、プロットとは別に、開拓初期のニューイングランドの風物や習慣が生き生きと描かれていることは、特にそれ以前の歴史について語る要素をもたないアメリカ人にとっては、そうとうな意味をもっているのかもしれません。本書は1850年に出版されています。翌年には「白鯨」が出版されているとのことです。72024/05/11