内容説明
美しく咲いた桜の園に5年ぶりに当主ラネフスカヤ夫人が帰ってきた。彼女を喜び迎える屋敷の人々。しかし広大な領地はまもなく競売にかけられることになっていた(「桜の園」)。滑稽で支離滅裂ぶりが笑いを誘うボードビル2つを併せて収録、チェーホフ喜劇の真髄を味わう。
著者等紹介
チェーホフ,アントン・パーヴロヴィチ[チェーホフ,アントンパーヴロヴィチ][Чехов,А.П.]
1860‐1904。ロシアの作家。南ロシアのタガンローグ生まれ。モスクワ大学医学部入学と同時に新聞・雑誌への執筆活動を始め、生涯に600編にのぼる作品を残した。ロシア文学伝統の長編と決別し、すぐれた短編に新境地を開いた。晩年には戯曲に力を注ぎ、『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』の4作品は世界的な名作として知られる。44歳の誕生日にモスクワ芸術座で『桜の園』を初演。直後、体調を崩して病状が悪化し、7月療養先の南ドイツで死去
浦雅春[ウラマサハル]
1948年生まれ。東京大学教授。チェーホフを中心としたロシア文学、ロシア・アヴァンギャルド芸術の研究を手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
巨峰
64
4幕ものの戯曲「桜の園」と1幕もの戯曲2篇の計3作。この1幕ものの「プロポーズ」「熊」は超面白いドタバタ劇。「桜の園」はロシアの白い桜の花を想像して読みました。破産しかかっているのに人に与えることでしか、物事に対応できない女領主がおかしくも哀しい。当たり前ではありますが、戯曲は会話が生き生きとして楽しいですね。新訳なら尚更そう思います。2012/11/14
Y
50
チェーホフ作品特有の不条理や破綻は、ここでこの描写を入れる必要はあるのか?というような冗長さ、過剰さがそれに拍車をかけているのかなと思った。解説ではじめて知ったが、チェーホフは病気、サハリンでの日々を経て独特の視点を獲得したのだという。ロングに引かれた目から見ればこの世のありとあらゆる事象は悲劇でも喜劇でもない。チェーホフはいたるところで自分の作品を「コメディ」と称したそうだが、悲劇に転化することに予防線を張るために「コメディ」という言葉を使ったのだろうという解説に唸った。「熊」が気に入った。2014/04/16
yumiha
44
チェーホフ最後の脚本「桜の園」。もうすぐ競売にかけられるというのに、当主もその兄もじぇんじぇん危機感がないんですわ。これまで人任せに生きてこれた地主だから、対処する方策に頭を使ったりせず、座して待つ…という心意気すらないんですわ。「こうしてお迎えが来たって、なんだか生きてきた気がしないなあ…」という老僕のフィールスが痛ましい。歳を取ればとる程1年は早く過ぎ去るから、神や天使がもうそこまで来ていたなんて…。「プロポーズ」「熊」はボードビル作品。私はちっとも笑えなかったけれど、舞台を見たなら楽しめるのか?2023/02/22
zirou1984
43
「桜の園」は新訳で再読。再読して気付かされるのは過剰に登場してくる人物たちはうすら禿げのアラサー学生、飴玉好きの中年、やくざな召使いとキレッキレな猛者揃いだったということ。高貴な主張が日常のドタバタに回収され、ただ時間だけが過ぎていく喜劇。おお、おそロシア。ボードビル的滑稽劇である他の2作はツンデレ風味に加え罵詈雑言のつるべ打ちでひたすらに笑う。クララのばか!いくじなし!野蛮人!荒くれ熊の化け物!古ダヌキの偽善者!案山子野郎で唐変木のおたんこなす!汚らわしい猟銃でライチョウみたいに撃ち殺してくれるぞ!2015/12/06
molysk
36
桜の園は、ロシア帝政末期の劇作家チェーホフによる戯曲。没落する女地主のラネフスカヤは、滞在先のパリから自らの屋敷に戻り、庭には一面の桜の花が出迎える。莫大な借財のために、桜の園が競売にかけられる日が迫るも、ラネフスカヤは嘆くのみで、無為の日々を過ごす。ついに桜の園は、農奴の倅で新興商人のロパーヒンのものとなる。木を切る斧の音が聞こえる中、ラネフスカヤは哀惜を押し殺し、桜の園を去る。だが、その娘アーニャは、新しい世界への期待に胸を膨らませていた――。旧階級の凋落の中でも、新世代への希望を感じさせる終幕。2019/10/05