内容説明
「スタヴローギンの告白」として知られる『悪霊』第2巻「チーホンのもとで」には、3つの異稿が残されている。本書ではそのすべてを訳出した。さらに近年のドストエフスキー研究のいちじるしい進化=深化をふまえ、精密で画期的な解説を加えた。テクストのちがいが示すものは何か。
目次
失われた「告白」 ドストエフスキー『悪霊』第2部第9章のゆくえ
『悪霊』第2部第9章―「チーホンのもとで」初校版
『悪霊』第3部第1章―「チーホンのもとで」ドストエフスキー校版
『悪霊』第2部第9章―「チーホンのもとで」アンナ版
著者等紹介
ドストエフスキー,フョードル・ミハイロヴィチ[ドストエフスキー,フョードルミハイロヴィチ][Достоевский,Ф.М.]
1821‐1881。ロシア帝政末期の作家。日本を含む世界の文学に、空前絶後の影響を与えた
亀山郁夫[カメヤマイクオ]
1949年生まれ。東京外国語大学長。ドストエフスキー関連の研究のほか、ソ連・スターリン体制下の政治と芸術の関係をめぐる多くの著作がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
90
本編より抜粋した3つのテキストを比較して読むという感じでした。残されている異稿の全てを初稿、ドストエフスキー、妻・アンナそれぞれの形で読むことで示された違いが興味深かったです。アンナの書いたものはかなり危険思想があり、制約が加えられたのが伺えました。それぞれの違いは微妙なものなのかもしれませんが、そこには告白しなければならないことに対する重視が見て取れます。登場人物が「悪霊」と戦ったように、ドストエフスキーもまた「読者」という「悪霊」と戦っていたのでしょう。2016/11/23
榊原 香織
62
雑誌連載時にカットされた部分には別稿が3部ある。 それを皆翻訳して1巻に。 ゲス男の告白を3回読まされるわけです。 それぞれ削除された部分や追加された部分を読むと、チーホン教父のぼんやりした反応が少しはっきりする。2023/04/22
みっぴー
54
大人の事情で中々日の目を見ることが叶わなかった『スタヴローギンの告白』。作者Dと編集者のやりとり…というかバトルが、リアルで面白かったです。色んな『告白』バージョンがあって、初稿は『告白』original、校正版は『告白』remix、妻のアンナ版は『告白』featuringAと、勝手に名付けてみました。名付けただけで、内容はよく理解出来ません。しかし、あの手この手で編集の目を誤魔化そうとするDの執念を感じました。きっとDも創作という悪霊に憑かれていたのでしょう。2016/12/02
里愛乍
45
元来第二部九章にあたる『告白』は、内容が内容だけに校正を繰り返した結果三つ存在してしまい、それらが亀山氏の解説とともにまとめられています。『悪霊』構成上の中心をなすものと考えられていたとされ、専門的には文学史的には貴重な資料でしょうし、背景を繙くに当たっては興味深いことでしょう。ただ素人読み手である自分からすれば、それは完全に大人の事情的な問題で、しかももう2巻で普通に読んじゃってますしね。『悪霊』はドスト作品の中でも<最も複雑な謎めいた作品>だそうですが、まさにその通りだと思います。 2017/11/16
市太郎
40
まさに本編の核心ともいうべき「告白」の章。当時は出版されず、後に発見された3つの稿を掲載、検証している。この章無くして「悪霊」は語れない。結局、ドストエフスキーがもっとも出版したかった形は永遠に不明のままで、この「悪霊」もやはり未完成。それでも著者の力のすごさを感じてしまう。一生涯読んでいけるような底力も持っている。彼が描きたかったものとは一体何だろう・・・多少違っているとはいえ、同じ内容のものを(本編含めて)四度読むのは辛い。さすがに今回は電池切れ・・・また改めて読み、自分も徹底的に比べてみたい。2013/11/13