内容説明
中国近代文学の草創期を代表する実験的小説群。伝統批判だけでなく、当時中国人が獲得しつつあった近代性に対しても懐疑の目を向けた『彷徨』。激しい喜怒哀楽の情をたぎらせる古代の英雄聖賢を描く『故事新編』。中国革命を生きた文学者、魯迅の異色作を紹介。度重なる不幸で精根尽き果てていく女を描く「祝福」。すっかり様変わりした昔の友人の、閉塞感と郷愁に満ちた来し方の物語「酒楼にて」。春秋戦国時代に、思想と技術と組織力で反戦に奔走する思想家墨子の、静かなる闘いを描く「非攻」。意外な魯迅像が発見できる代表作8篇。
著者等紹介
魯迅[ロジン]
1881‐1936。中国淅江省紹興の地主・官僚を兼ねる知識層の士大夫の家に生まれる。1896年に父が病死して、家も傾く。1902年日本へ留学し医学を志すも、文化の改革の必要性を痛感して文学に転向。留学中には欧米文学の中国への紹介・翻訳に力を注ぐ。’09年の帰国後は、雑誌「新青年」を中心に起きた、口語文による「新しい国語」で、民衆を国民国家の成立へ向けて導こうとする文学革命運動に参加。’18年に代表作「狂人日記」、’22年「阿Q正伝」を発表
藤井省三[フジイショウゾウ]
1952年生まれ。東京大学文学部教授。1991年魯迅研究により文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Willie the Wildcat
78
半藤氏の『墨子よみがえる』で紹介された『非攻』が目当てで手に取った一冊。まずその『非攻』。「愛と恭」が示す本質、”不毛”と解釈。問題は気づきと受容で、〆の”ずぶ濡れ”が姿勢を示す感。一方、『鋳剣』は手段は対照的だが、遺恨を残さないという結果が共通項。これらの中間に位置するかのようで興味深いのが『出関』。本質を分かろうともしないが故に、”平和”を揶揄するかのような関所の面々。”歯がない”ことを表層としていることにも苦笑い。『彷徨』の悲哀より、『故事新編』の短文に滲む示唆とユーモアに軍配を挙げたい。2022/09/02
榊原 香織
70
独りで居酒屋に入って、いきなり紹興酒3合は多くない?(”酒楼にて”)魯迅かなりいける口?つまみが揚げ豆腐10ていうのもどれぐらいの大きさなのか・・新訳は旧訳より中国語に則したそうです。 解説で、あれ?○○さん(知ってる人)の論文が1ページも引用されてるオドロイタ2022/09/08
巨峰
57
古典新訳文庫2冊目の魯迅。魯迅が生きた時代を舞台にした短編小説4編と、歴史に取材した短編4編。衝撃度では、第1冊だとは思うが、この短編小説集は、さらに後の時代にかかれたものであり、作者の老成を感じさせる。内容的にはもっと暗くなってもおかしくないのだけど、どことなく大らかで骨太で明るい印象をもった。それは、日本人とは違う感性で書かれたからであろうか。2010/10/14
藤月はな(灯れ松明の火)
30
(私情込の感想、注意)個人的に少々、不快と嗜虐的になった短篇集でした。「石鹸」では四銘氏の自分の質問に答えられなかった子供に対する叱責の口調が誰かに似ていると思って考えた所、家庭内別居で引き籠る前の食卓で私が意見を口にした時に私を愚か者として罵った父の口調と似ているのだと気づきました。だからこそ、自分も分からない癖に自信満々だった四銘氏自身が恥を掻いたのは、ざまあ見ろと思います。「奔月」は過去の栄光にしがみ付き、現実を見られなかった男の痛さと「誅剣」のグロテスクなシュールさが笑えてなりません。2013/05/11
たぬ
29
☆3.5 1926年の『彷徨』と36年の『故事新編』から各4編。『彷徨』からの4編は当時の中国の庶民の暮らしぶりが垣間見えて興味深い。父と長男以外の立場が著しく低いのは想定内だけど、かつては輝いていた女性が野垂れ死にだの扱いに困った飼い犬を妻に内緒で生き埋めにするだのはえええ…。『故事』は首だけになって戦う等グロファンタジーあり。墨子が老子がコミカルに描かれているのも新鮮でした。2021/10/26