内容説明
19世紀ロシアの一裁判官が、「死」と向かい合う過程で味わう心理的葛藤を鋭く描いた「イワン・イリイチの死」。社会的地位のある地主貴族の主人公が、嫉妬がもとで妻を刺し殺す―。作者の性と愛をめぐる長い葛藤が反映された「クロイツェル・ソナタ」。トルストイの後期中編2作品。
著者等紹介
トルストイ,レフ・ニコラエヴィチ[トルストイ,レフニコラエヴィチ][Толстой,Л.Н.]
1828‐1910。ロシアの小説家。19世紀を代表する作家の一人。無政府主義的な社会活動家の側面をもち、徹底した反権力的な思索と行動、反ヨーロッパ的な非暴力主義は、インドのガンジー、日本の白樺派などにも影響を及ぼしている。活動は文学・政治を超えた宗教の世界にも及び、1901年に受けたロシア正教会破門の措置は、今に至るまで取り消されていない
望月哲男[モチズキテツオ]
1951年生まれ。北海道大学教授。ロシア文化・文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のっち♬
125
『イワン・イリイチの死』では平凡な判事が死に向かう過程における心理的葛藤が鋭い洞察の元に描かれている。彼のように人はいつか死ぬことを知りつつも、それを自分自身のこととしては意識していない人間は少なくないだろう。作中で彼が得た数々の驚きや発見は真実味と説得力のあるものだ。『クロイツェル・ソナタ』は嫉妬から妻を殺害した男による独白。演奏シーンはもちろんのこと、終盤で怒涛の勢いで膨張する嫉妬の克明かつ精緻な描写は圧倒的な迫力がある。どちらも力強い筆致だが、人間・夫婦関係に対する著者の疲弊が随所に反映されている。2017/11/18
kazi
82
「イワン・イリイチの死」は初読でした。トルストイが扱うテーマは過激ですね。『彼の仕事も、生活設計も、家族も、社会の利益や職務上の利益も─ ─すべて偽物かもしれない。』死が迫った時に、こんな思いに襲われたくは無いですよね。自身の人生に照らし合わせて、生き方というものについて考えさせられます。「気楽、快適、上品」をモットーにしていたイリチイ氏は、家族や社会と真剣に向き合うことを避けてきたツケを払わされたのでしょうか?私が死ぬときに、側で悼んでくれる人はいるのだろうか?なんだか自信が無くなってきましたよ・・。2020/08/02
キムチ
81
生きているからこその苦悩を見事に掘り下げている。個人的な想いだがスラブ民族独特の香りがした。どうしても視覚から入ってしまうのでトルストイの・・あの写真を思い出しつつ読み終えた。どちらも重い・・だが思ってどうなるの❓‼と考えているのは未だに死への恐怖が迫ってこないからだろうか(という傲慢さ)クロイツェル・・、ベートーベンのその曲を思い出せないけれど、人それぞれにある「静謐であるが故の」という素晴らしい曲かな。この本の前に読んだ作品とオーバーラップして私なりに複層的な感慨にふけった。男と女・・それしかいない。2016/06/02
星落秋風五丈原
80
「イワン・イリイチの死」次男として生まれたイワン・イリイチはごく普通に育ちごく普通の結婚をするが途中から夫婦生活が悪くなっていく。それでも見ないふりして普通を生きようとする。倒叙法で冒頭がイワン・イリイチの死。「クロイツェル・ソナタ」ひとしきり列車の中で結婚・恋愛について人々が話したあと、一人残った私に青年が打ち明けた事とは。映画でも延々青年が話していた小説を踏襲した構成だった。妻明らかにとばっちりだと思うのだが。2023/08/12
ずっきん
66
同僚の強推薦で後期ニ中編。はるか昔に見栄だけで『戦争と平和』を読んだきりだったので、ドストエフスキーとロシア文学ひとまとめにしちゃってた。全然違ってたね、トルストイ。構成、語り、レトリック、全てが素晴らしいので、これがトルストイの主張なのか云々はどうでもいい。これぞ小説。洗練の極みである。引き摺り込まれて存分に追体験するがいい。あああと息を漏らせ。解説読むと、かなりメンタル病んで越えた後の作品らしいので、ここからアナ戦に戻って読むとまた違った衝撃受けるのかな? うーん、どっちからいこうか。楽しみ。2024/02/13