内容説明
「あの女が…いた…」そう言って、デパートのエレベーターの中で男が死んだ。手がかりは、落ちていた名刺とこの言葉だけ。被害者の周辺から疑わしい人物の名前が挙がってくるが、決定的証拠が掴めない。そして被害者の過去の鍵を握る少女の影。千草検事と刑事たちは真実を追いかける―。日本推理作家協会賞受賞の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
85
【千種検事シリーズ】第1弾。1963年日本推理作家教会賞、受賞作品。デパートのエレベーター内で、光陽学園の校長が毒殺される。被害者は最後に「あの女をみた」と言葉を残し、1枚の名刺が落ちていた。捜査からひとりの男が容疑者に上がるが、続いて2件目の殺人も起きてしまう。そのどちらにも、容疑者の男には強固なアリバイがあった。写真を使ったトリックは、当時ならではのもので、ちょっと注意していればアリバイは崩せるだろう。各章に描かれた謎の少女の物語が明らかになる事で、その重い動機に単なる謎解きではない読み応えを感じる。2021/05/24
そーいち
14
あの女がいた」と言って死んでいく被害者の導入部分は魅力的で、犯人が犯した些細なミスから徐々に迫っていく展開もよい。アリバイトリックが出てくるのだが、考えれば浮かびそうなトリックはさすが土屋隆夫さんといった所か(実際に実行可能なトリックしか活用しない主義)実はトリック解明に繋がる伏線が始めの方から散りばめられており、上手いな、と感心してしまった。さて、物語としては動機が陰惨なものである。犯人がそうしてしまった心情は分からなくもないくらい、被害者はクソ野郎であった。心に少し傷を残して物語は終了する。2022/04/06
練りようかん
11
日本推理作家協会賞きっかけ。狭い密室で起きた殺人事件。直前に放った一言や偶然と故意とどっちにも取れる落とし物など、興味をがんがん引いてくる滑り出し。エレベーターガールに時代を感じ、アリバイ崩しのため訪れる小諸で慕情が香り、物語の色合いを楽しんだ。あの女とは誰か。犯人も犯行手口もほぼほぼわかってる中で、あの女探しのミステリーが赤い風船のごとく上空に飛んでいくイメージだ。2時間ドラマを思わせる展開だが、度々入る少女の朧気な意識の挿話は重層的な意味を持つ影に大きく貢献していて小説で読む価値を感じた。面白かった。2024/11/12
鉄人28号
8
☆☆☆☆ 5回目。S62.2.12 H13.3.20 H23.6.28 H30.2.9 2021/10/25
hit4papa
7
千草検事と、刑事たちが地道な捜査で、アリバイを崩していくという本格ミステリです。見破るのには難易度の高いトリックを楽しむことができます。各章冒頭の正体不明の少女モノローグが、単なる謎解きに終わらせない味わいを感じさせます。千草検事がそれほど魅力的ではないのが難点でしょうか。