出版社内容情報
クラスの女子たちが、タイムカプセルを埋めたらしい。6年3組のぼくは、親友のシンイチとヨモヤとともに、遠くの煙突の麓にある公園まで自転車で行ってみることにした――「海の街の十二歳」高校の同級生・潮田の久しぶりのSNSを見ると、癌で闘病中とあり見舞いに訪れた波多野。数ヶ月後、潮田は亡くなり、奥さんのカナさんから、散骨につきあってほしいと言われ――海の街を舞台にした著者の新境地、全7編。
内容説明
―海は、この星の涙の、行き着く先かもしれない。逃げるように移り住んだ土地で十二年ぶりに再会してしまった元恋人、クラスメイトのタイムカプセルを掘り起こしに行く小学生、職場からの逃亡を企てる学校教諭と保育士、絶縁していたはずが新たな子を連れて現れた父親、潰れた八百屋に隠されていた七年間の秘密、若き青年との疑似恋愛に溺れる編集者、癌になった友人と、海岸に打ち上げられた鯨。すべて、この海の街で波のように生まれては消えた、ちいさな物語。
著者等紹介
カツセマサヒコ[カツセマサヒコ]
1986年、東京都生まれ。Webライターとして活動しながら2020年『明け方の若者たち』で小説家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sayuri
43
「徒波」「海の街の十二歳」「岬と珊瑚」「氷塊、溶けて流れる」「オーシャンズ」「渦」「鯨骨」海辺の街を舞台にした7話収録の短編集。カツセさんの文章は心地いい。海辺の街が舞台だからと言うわけではなく、どの物語も波間にゆらゆらと揺られている感覚に陥る。時に人の弱さや愚かさも描かれているが、それすらも静かに包み込み、流れに身を委ね生を営んでいる彼等に安心感を覚える。波の音や子ども達の声、珈琲の香りまでが漂い五感を刺激する。透明感と静けさ、カツセさんの描く世界観が堪らなく好き。心が浄化される切なくて愛おしい作品集。2024/11/05
shio
35
波打つ度に、もたらし、連れ去る。無慈悲に荒れ狂いながら、その中で生命を育む広い海。海と共に紡がれる、それぞれの人生の出来事。海の匂いは、しくしくと痛む心に滲みながら、懐かしさや愛おしさを連れてくる。夏の終わりの思い出のような短編集。「鯨骨」の鯨の亡骸の大きさが伝える、圧倒的な生と死。そして仲の良かった友人のそれまでの人生や死。友人にとって自分は何番目だったんだろう、なんて考えながら散骨する、その時にその人のことを大切に思い出す一瞬。磯溜まりの中の光るスニーカー。子どもの頃の夏の夢のようで素敵でした。2024/08/23
satomi
32
海辺の街が舞台の短編集。話はつながっていたり、つながりが見えなかったり。「岬と珊瑚」「オーシャンズ」「鯨骨」が好きかなぁ。今まで読んだカツセマサヒコさんの作品の中では、全体的に優しめな雰囲気で、せつなさもあって好き。確かに、わたしたちは、海、なのかもしれない。海は繋がっているからね。装丁にもこだわりがあって、素敵な一冊。宝物。2024/10/27
しおり
29
海の近くの街に住む年代も生活も違った人達が、何となく繋がったオムニバス。海の波がきざむ音のような軽いタッチだけれどわ私には結構重苦しい印象。2024/12/07
Tαkαo Sαito
25
多様な生き方、人生、考え方、価値観があり、そのどれもに良し悪しを外部の人間がつけることはできない。一般的に見たらそんな生き方しなくても...と思うような生き方でも本人が納得していれば良いじゃないか!という気持ちがスーッと心に入ってくるような素晴らしい作品でした。この辺りの人間ならではのむず痒さ、心の動きを描かせたら上手すぎると改めて思いました2025/02/21