出版社内容情報
美術は、美を求める気持ちから作られ鑑賞されたものばかりではなく、社会に流通する商品であり、政治・経済に組み込まれている。
内容説明
カラヴァッジョ絵画の新解釈、バスキアの革新性、ゲルハルト・リヒターの真実、ボルタンスキーの来世のヴィジョンetc.美術の本質に迫る55話。
目次
第1章 名画の中の名画
第2章 美術鑑賞と美術館
第3章 描かれたモチーフ
第4章 日本美術の再評価
第5章 信仰と政治
第6章 死と鎮魂
著者等紹介
宮下規久朗[ミヤシタキクロウ]
1963年愛知県名古屋市生まれ。美術史家、神戸大学大学院人文学研究科教授。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院修了。『カラヴァッジョ―聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞などを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
69
幅広い美術が登場する新書。ベラスケスやカラヴァッジョ,ゴッホを扱った第一章「名画のなかの名画」,「ロシアのアイデンティティそのもの」であるレーピン、石川雲蝶、ゲルハルト・リヒターやポルタンスキーに関する記述、「病魔退散の神」「疫病と聖母」も時節柄興味深かった。著者は2013年に愛娘を亡くされ「大きな悲嘆と絶望の前には、美術は何の力ももたないという厳然たる事実に直面した」「美術は宗教と同じく、根本的な救いにはならないものの、ときに絶望にも寄り添うことができる存在だと思うにいたっている」と書かれている。→2021/10/29
ハイランド
53
コロナ禍で思うように絵画鑑賞できない状況下、相変わらずのコンパクトながらバラエティに富む切れ味の良い美術評論は読んでいて楽しい。第六章「死と鎮魂」では、病気で夭折した娘に思いを馳せ、大きな悲嘆や絶望、あるいは眼前に迫りくる死に対して、宗教も美術も救いにはならないと心情を吐露しているが、筆者の生の声を聞けたようで興味深い。惜しむらくは参照画像が小さい。細密描写だと、目を凝らしても細部が見えない。残念ながら取り上げられた作品の大部分を生で見る機会は生涯訪れないと思うので、せめて一ページ使って紹介してほしい。2022/11/30
takaya
17
前半は、コロナ禍の中、著者が見た美術展などを中心にして、いつもの示唆に富んだ作品解説があり、夢中で読みました。しかし、後半は著者の個人的な喪失と絡めて、美術作品の解説がなされていて、重い読書経験になりました。今まで知らなかった著者の一面に触れ、複雑な気持ちです。2022/02/28
Francis
16
猫町俱楽部藝術部の課題本。私はサポを務めます。宮下先生は一度お会いしているが、娘さんを失った悲しみはまだ癒えていない。それでも前半部の文章は美術研究者らしい文章にあふれている。しかし後半になるとコロナ禍のためもあり、読むのがつらくなってくる文章が多くなるのだ。ちょっと読書会はやりにくいかもしれない。2021/12/01
Francis
13
猫町俱楽部で宮下先生をゲストに迎えた読書会を行うために再読。それにしても宮下先生、良く分かっていらっしゃる。そして美術への関心を喚起する文章になっているのも良い。ロシア美術、日本美術、狩野派…など面白いテーマが満載。2021/12/26