内容説明
平成元年4月3日、浅草の商店街で殺人事件発生。浮浪者風の老人が400円の菓子を買い、消費税12円を請求されたのに腹を立て、店の主婦をナイフで刺したのだ。警視庁捜査一課吉敷竹史には、壷に落ちないものがあった。あんな柔和な顔の老人が、何故、人を刺したのか。しかも、氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。この裏には何か、筆舌に尽くせぬほどの大きな闇がある!?吉敷の懸命な捜査と推理の冴えで、過去数十年に及ぶ巨大な犯罪に構図が浮かび上る。度胆を抜く壮大なトリック、社会の暗部を衝く予想外の謎。推理界の鬼才が本格推理と社会派推理とを見事に融合した、吉敷竹史シリーズの金字塔。渾身の書下ろし本格推理の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドウ
7
10年くらい積んでいた本。12円の消費税を巡るトラブルで起きたかのように見える殺人事件の真相を吉敷竹史が足で情報をかき集めて暴く社会派ミステリ(何だかんだ吉敷竹史シリーズは初読)。昭和から平成へ移ろいゆく時代や、戦時中の強制徴用への批判的眼差しは、同時代人でない私には新鮮で面白かった。ただ、読んでいて推理できない謎が謎のまま終わったり、真相究明の最後の一手が『死者が飲む水』とほぼ同じだったり、重要な舞台である札沼線の描写がちぐはぐだったりと、かつて島田荘司にハマった時代より小賢しくなった私には粗が目立つ。2020/04/11
ウィン
6
社会派と本格の融合に成功している名作との評判を聞いたので、基本的に俺は吉敷竹史シリーズは読まないのだが、今回は読んでみた。最初は消費税十二円という小さなきっかけから起こった殺人事件と考えられていたものが、どんどんスケールが大きくなっていく。そして本格を思わせるような謎も絡んできて、読者としては先が気にならずにはいられない。終盤では鮮やかな謎解きが繰り広げられ、そして最後は社会派らしく読者に何かしらの問題を提起するような形でストーリーは締めくくられる。乱歩を意識した部分も所々に感じられ、総じて満足。2010/10/19
hirayama46
3
長大な作品の多い御手洗潔シリーズに比べてコンパクトでやや一発ネタ的な部分の多い吉敷シリーズですが、本作はタイトル通りの奇想トリックや二転三転する捜査のプロット、社会派小説としての趣向などが盛りだくさんになっていて、本シリーズのなかでもかなりの力作と言える作品だったと思います。このシリーズの人物関係は吉敷と主任の仲がどんどん険悪になる以外にはあまり変動が少ないのですが、本作はそれがついに臨界点に達して、吉敷の熱い思いが吐露されるシーンもあり、そのあたりも含めて集大成的な作品なのかもしれません。2023/01/31
kumi
3
20年前位に読んだ初の島田作品がコレだった。が、内容をほとんど忘れていたので再読。作中小説やサーカスなどのファンタジー、並走する電車間でのトリック、男の人生から考えさせられる歴史の重み、それらが最後にすべて合わさってするすると解ける気持ちよさと切なさ。面白かったです。現実に、吉敷みたいな刑事が昔も今も活躍していますように。2015/07/26
タリホー
3
内容はともかく長い作品。刑事モノで社会的問題が含まれた作品だからかそうスラスラ展開は進まないし、どこか重い雰囲気もある。また消費税による殺人から壮大な展開へ広げていくのはこの著者らしいなと思う。肝心の謎に関しては某漫画で知っていたので驚きはしなかったが、幻想的な世界観の裏に人間の業が孕んでいる所は趣深いものがあると思う。
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- 和書
- 定食屋「雑」