内容説明
アルゼンチンの生んだ偉大なる盲目の作家ボルヘス最晩年の世界旅行記。ミノタウロス=作家の描く迷宮地図には「世界」そのものが含まれている。
目次
ガリアの女神
トーテム
カエサル
アイルランド
狼
イスタンブール
天恵
ヴェネツィア
ボッリーニの抜け道
ポセイドンの神殿〔ほか〕
著者等紹介
鼓宗[ツズミシュウ]
1965年、兵庫県神戸市生まれ。神戸市外国語大学修士課程修了。訳書アドルフォ・ビオイ=カサレス『脱獄計画』(共訳)オクタビオ・パス『三極の星』
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感想・レビュー
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コットン
68
旅の写真と文章で構成された軽いエッセイ集の趣で、理解できているとはいいがたいが、深い洞察の中から生み出された言葉の数々が印象深い。縦横無尽な方向性は次の言葉からも…「わたしの肉体は、ルツェルン、コロラド、カイロのいずれにも存在し得る。しかし毎朝、目を覚ましてボルヘスであるという習慣を再び身にまとう時…」2017/07/26
misui
5
詩文集のようなエッセイのような旅の記録。これはボルヘスに一通り親しんでから読むともっと楽しめるかなぁ。世界はプラトン的な原型の影に過ぎず、言葉はさらにその影、ということは世界は鏡の乱反射、みたいなことを勝手に受け取ったが読む人ごとに違ってきそうである。あと、ボルヘスの日本についての知識はラフカディオ・ハーン経由っぽい。2011/11/11
roughfractus02
3
盲者は自らの写真を見ないのではない。盲者は写真によって眼があるから見るという偏見を打ち破るのだ。ファインダーを覗かず、シャッターを押さない著者は、付き添う女性が撮影した写真を見ないが、その場所の固有名を聴く。そしてガリアの女神から出雲大社までの写真の傍に、様々な固有名が添えられるのだが、歴史の深みを示すそれら文字も彼が書いたものではない。が、この二つの間接性を承知しても、読者は写真と文字にボルヘスなる固有名を見出すだろう。本書は読者に視覚の本性を突きつける。あなたは眼があるにもかかわらず見ているのだ、と。2017/11/22
ふゆきち
2
旅行記かと思いきやほとんど詩集でした。これはこれで。砂漠の砂をつかんで少し移動するにあたり、「サハラ砂漠の姿を変えようとしている。これを口にするために自分の全生涯は必要とされたのだ」と記したエジプトでの文章が、やけに印象に残りました。2023/08/10
べる
1
旅に関連するボルヘスの詩文集。都市、歴史、時間に及ぶ彼の幻想的哲学であり、時間という無限の流れに遊ぶものである。世界という枠組み、言葉という機能、この中に人間がいて、神という絶対的存在を証明しようとする。クレタの迷宮を時間になぞらえ、彷徨い行くものだと唱えている。世界の流れを緩やかな薄命の中で見つめてきたボルヘスの欠片である。2013/08/06