出版社内容情報
バイオ立国をめざす経済政策とナショナリズムが絡み合い「卵子不正流用」が起きた経緯を活写。韓国の経験から生命倫理の基盤を問う。
日本では論文捏造事件としてのみ報道された「黄禹錫事件」の陰に女性の身体が生命工学の道具とされた現実があったことを韓国語による大量の一次資料から描き出す。先端科学研究による経済発展の可能性や国威発揚に熱狂した国民感情の前にあって、「生命倫理的価値」はいかに脆弱であったか。韓国の経験を通し生命倫理の基盤を問う力作。
[関連書] W.ラフルーア・G.ベーメ・島薗進編著 『悪夢の医療史』 (勁草書房刊)
はじめに――研究用卵子提供問題から見た韓国ES細胞論文捏造事件
第一章 「メイド・イン・コリアのヒトクローンES細胞」の構想
──先端科学をめぐるバイオポリティクスの展開
一 「バイオ・コリア」の見果てぬ夢
二 「黄禹錫神話」の形成と愛国的科学主義
三 バイオ立国のシナリオ
四 『サイエンス』論文に描かれた研究用卵子獲得の戦略
五 「一番幹細胞(NT-1)」の終わりなきドラマ
第二章 先端科学をめぐる生命倫理問題と「不妊治療」
──研究用卵子大量不正提供の社会文化的背景
一 研究用卵子提供をめぐる生命倫理問題
二 研究員の卵子提供に対する韓国社会の反応
三 韓国の「不妊治療」における卵子提供と卵子売買
四 研究用卵子大量不正提供の構造的背景
第三章 研究用卵子提供の内幕
─―卵子寄贈と卵子売買の間
一 「黄禹錫事態」の勃発
二 研究用卵子提供の実態
三 卵子提供者の語る真実
四 卵子提供者の階層分化
第四章 韓国女性達とヒトクローンES細胞研究をめぐる
バイオポリティクス
──「核を抜かれた卵子」へのスタンス
一 研究用卵子寄贈運動の展開
二 研究用卵子提供者のトラウマ
三 研究用卵子提供の後遺症に苦しむ女性達
四 卵子の研究資源化に対する異議申し立て
結語 ヒトクローンES細胞の夢の跡
──「黄禹錫事態」後のバイオポリティクス
あとがき――韓国のヒトクローンES細胞研究をめぐる生命倫理と宗教文化
【参考資料1】 黄教授チームの研究に関するIRB審議の調査記録
1 漢陽大学校ソウル病院IRB審議経過
2 漢陽大学校九里病院IRB審議経過
3 ソウル大学校獣医科大学IRB審議経過
4 ミズメディ病院IRB審議経過
5 延世大学校セブランス病院IRB審議経過
6 ハンナ産婦人科医院IRB審議経過
7 ソウル大学校病院IRB審議経過
【参考資料2】 研究用卵子提供に関する国内外の法規
1 研究用卵子提供に関する国際規範
2 研究用卵子提供に関する韓国内の法令およびガイドライン
事項索引
人名索引
内容説明
先端科学研究による経済発展の可能性と国威発揚に熱狂した国民感情の前にあって、“生命倫理的価値”はいかに脆弱であったか。バイオ立国をめざす経済政策とナショナリズムが絡み合い、女性の身体が生命工学の道具とされた「黄禹錫事件」の経緯を活写。韓国の経験から生命倫理の基盤を問う。
目次
第1章 「メイド・イン・コリアのヒトクローンES細胞」の構想―先端科学をめぐるバイオポリティクスの展開(「バイオ・コリア」の見果てぬ夢;「黄禹錫神話」の形成と愛国的科学主義 ほか)
第2章 先端科学をめぐる生命倫理問題と「不妊治療」―研究用卵子大量不正提供の社会文化的背景(研究用卵子提供をめぐる生命倫理問題;研究員の卵子提供に対する韓国社会の反応 ほか)
第3章 研究用卵子提供の内幕―卵子寄贈と卵子売買の間(「黄禹錫事態」の勃発;研究用卵子提供の実態 ほか)
第4章 韓国女性達とヒトクローンES細胞研究をめぐるバイオポリティクス―「核を抜かれた卵子」へのスタンス(研究用卵子寄贈運動の展開;研究用卵子提供者のトラウマ ほか)
結語 ヒトクローンES細胞の夢の跡―「黄禹錫事態」後のバイオポリティクス
著者等紹介
渕上恭子[フチガミキョウコ]
1959年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、元南山大学南山宗教文化研究所研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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