出版社内容情報
生存時間データ解析は、医学、薬学、看護学などの分野で広範に活用されている。本書では、一般的によく用いられるKaplan-Meier法やログランク検定などの統計手法について、具体的な例を挙げながら解説する。
本書の最大の特徴は、共変量が時間依存型である生存時間データ解析を取り上げる点にある。従来の生存時間データ解析では、生存時間に関する共変量の観測は各患者について1回のみで、時間が変化しても不変である。しかし実際の臨床現場では、日々の採血データのように、反復して経時測定される時間依存型共変量が存在し、それによって予後が時々刻々と変化しうることは容易に想像される。そのため、この時間依存型共変量を取り込んだ予後モデルが待望されている。その手段として本書では、まずこれまで用いられてきたヨーロッパnew versionモデル、Mayo更新モデルおよび時間依存型比例ハザードモデルを提示した。さらに、近年ディープラーニングの1 つとして急激に脚光を浴びているリカレントニューラルネットワーク(RNN)に基づく解析法を紹介する。RNNではその時点での情報のみならず直近の情報をも反映した推定や予測が可能となり、競合リスク解析にも適用できる。
本書はフリーソフトであるR、あるいはRコマンダーを用いて作成されたEZRによるデータ解析を想定している。適宜、Rのスクリプトを掲載して読者の利便性に供した。また、読者は本書のweb ページからプログラムとデータをダウンロードして実体験できる。本書が、読者の生存時間データ解析の理解と活用に役立てば幸いである。
本書では、臨床医と統計家を隔てている行間を埋める一助になるように、それぞれのテーマに沿うデータ例を取り上げ、導かれる数式も具体的に書き出すことを意識している。
臨床医を対象とした医学統計の書籍は数あるが、その数理部分を解説しているものは多くない。そのようななかで本書は、あえて数式をふんだんに盛り込みながら解説する。本書を通読ないし辞書的に用いれば、臨床で遭遇する多くの統計的記載について、その数理的背景が理解できるようになると期待している。
一方、医学統計に関与しうる統計家に対しては、臨床的内容や臨床現場で求められていることを明確に述べることで、解析手法の妥当性について理解が深まるように努めた。
本書が臨床サイドと解析サイドをつなぐ一因となれば有難い。
目次
第1章 生存時間データ解析の基礎(生存関数;Kaplan‐Meier推定とログランク検定)
第2章 Cox比例ハザードモデル(部分尤度法;ベースライン生存関数;変数選択;比例ハザード性の検証;残差分析;層別比例ハザードモデル;フレイルティ付き比例ハザードモデル)
第3章 時間依存性生存時間データ解析(時間依存性比例ハザードモデル;ヨーロッパnew versionモデルとMayo更新モデル;部分ロジスティックモデル;再発事象解析)
第4章 競合リスクモデル(死因別累積発生関数;Fine‐Grayモデル;Ruan‐Grayモデル)
第5章 リカレントニューラルネットワーク(モデル構築;統計的推測;時間依存性臨床データへの適用例;フレイルティ付きリカレントニューラルネットワーク)
付録
著者等紹介
辻谷將明[ツジタニマサアキ]
1980年大阪府立大学大学院工学研究科博士課程修了。現在、大阪電気通信大学名誉教授、工学博士。専門:データサイエンス、ニューラルネットワーク
池亀和博[イケガメカズヒロ]
2000年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。現在、愛知医科大学造血細胞移植センター教授、医学博士。専門:造血細胞移植、血液内科、免疫学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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