出版社内容情報
本書は,パラメータの値を変えると,完全可積分系から始まって,馬蹄の存在する系までをつなぐ「可逆で,面積を保存し,向きを保つ2次元写像の1パラメータ族」を対象とし,周期軌道やホモクリニック軌道の出現を追いながら,これらの持つ位相的エントロピーを計算し,馬蹄にいたるまでの系の複雑さの進化を追う技術を展開・説明する。
第1章から第5章までで,スメールの馬蹄の構成から本書で利用する様々な数学的道具について説明する。第6章では,位相的エントロピーについて説明し,位相的エントロピーを求める二つの代表的な方法を紹介する。本書のメインとなる第7章および第8章では,周期軌道の出現の仕方を明らかにし,そのコードの持つ情報から位相的エントロピーを見積もる方法,ならびに,ホモクリニック軌道の出現の仕方を明らかにし,その性質から位相的エントロピーを見積もる方法を紹介する。
カオス・力学系を習得する際に必要な知識はその都度説明し,読みながら実践的に獲得できる。全体の構成や本文の記述も多くの工夫が凝らされており,また難しく感じられるところも,注意深く,丁寧に書かれている。ポアンカレ・バーコフ・スメールの流れを継ぐ,カオス・力学系の入門に適した書であると同時に,すでにカオス・力学系の多くの知識を持っている読者にとっても,その理解を新たにする本格的な書でもあろう。
第1章 接続写像
1.1 可逆面積保存接続写像の基本的な性質
1.2 可逆性
1.3 普遍被覆面
1.4 分岐現象
1.5 安定多様体と不安定多様体のふるまい
1.6 主ホモクリニック点の存在
1.7 安定多様体と不安定多様体の関係
1.8 基本領域
第2章 接続写像のスメール馬蹄
2.1 可逆スメール馬蹄の構成
2.2 記号列
2.3 周期軌道の記号列:コード
2.4 記号平面およびそこでの写像
2.5 回転数,偶奇性,時間反転対称性
2.6 軌道の順序保存性
2.7 可逆馬蹄の存在
第3章 対称周期軌道の基本的性質
3.1 対称周期軌道と対称線
3.2 普遍被覆面上の対称周期軌道
3.3 対称周期軌道の時間反転対称性
3.4 対称バーコフ型周期軌道
3.5 主軸定理と主軸定理より導かれる性質
3.6 対称バーコフ型周期軌道の記号化規則
第4章 共鳴領域,共鳴鎖とブロック表示
4.1 相平面の共鳴領域と共鳴鎖
4.2 記号平面の共鳴領域と共鳴鎖
4.3 最大値表示と最小値表示
4.4 代表共鳴領域の中の対称線
4.5 ブロック記号列
4.6 領域間の遷移
4.7 領域間の遷移行列
4.8 ブロックコード
第5章 ホモクリニック軌道の基本的性質
5.1 主ホモクリニック軌道と横断的交差
5.2 ホモクリニック軌道の記号列
5.3 主ホモクリニック軌道と2次のホモクリニック軌道の違い
5.4 核と内核の性質
5.5 対称ホモクリニック軌道の分岐
第6章 系の複雑さを測る
6.1 位相的エントロピー
6.2 ニールセン・サーストンの定理
6.3 3種類の組みひも
6.4 トレリス法
第7章 対称非バーコフ型周期軌道の順序関係
7.1 対称非バーコフ型周期軌道の存在
7.2 対称非バーコフ型周期軌道の安定性
7.3 順序関係
7.4 対称非バーコフ型周期軌道の出現順序関係
7.5 対称非バーコフ型周期軌道とホモクリニック軌道の関係
7.6 対称非バーコフ型周期軌道の分岐
第8章 ホモクリニック軌道の順序関係
8.1 線形順序関係
8.2 ホモクリニック軌道のブロック表示
8.3 ホモクリニック軌道の基本的な順序関係
8.4 線形順序を満たすホモクリニック軌道
8.5 位相的エントロピーの増加
付録A ポアンカレ・バーコフの定理
付録B 異常な回転分岐
付録C スターン・ブロコ樹とファレイ分割
付録D 高さアルゴリズム
付録E 組みひもの作り方
付録F 線路算法
付録G 周期軌道の出現する臨界値
付録H 周期軌道のブロック表示
付録I プログラム
山口 喜博[ヤマグチ ヨシヒロ]
著・文・その他
谷川 清隆[タニカワ キヨタカ]
著・文・その他
目次
接続写像
接続写像のスメール馬蹄
対称周期軌道の基本的性質
共鳴領域、共鳴鎖とブロック表示
ホモクリニック軌道の基本的性質
系の複雑さを測る
対称性バーコフ型周期軌道の順序関係
ホモクリニック軌道の順序関係
ポアンカレ・バーコフの定理
異常な回転分岐
スターン・ブロコ樹とファレイ分割
高さアルゴリズム
組みひもの作り方
線路算法
周期軌道の出現する臨界値
周期軌道のブロック表示
プログラム
著者等紹介
山口喜博[ヤマグチヨシヒロ]
1983年東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。現在、帝京平成大学大学院環境情報学研究科准教授。理学博士(東京理科大学)。専攻は力学系理論、非線形物理学、形の科学
谷川清隆[タニカワキヨタカ]
1974年東京大学大学院理学系研究科博士課程(天文学)満期退学。現在、国立天文台特別客員研究員。理学博士(東京大学)。専攻は天体力学(三体問題)、力学系理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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